大丈夫、俺に任せろ
「ストォーップ!」
体育館に小さく響いたコプチェフのストップコール。反射的に止まる俺たちの動き。
シーン的に今目を開いたら俺、死ぬ気がする。
「今のとこもう一回!」
『やだよ、コプチェフの鬼畜!』
マリカがコプチェフに抗議しながら遠退いた……気配がする。
目を開けると、案の定少し離れていたマリカの顔。俺も起き上がる。
「だって舞台の下から見たら丸わかりだもん」
『しょーがないでしょー!』
そう、確かに仕方ない。キスシーンだけは本当にどうしようもねぇんだよ。
と、まるで他人事のように納得してしまう。
『ボリスも言ってやってよ!』
「はぁ……本番でなんとかなりゃいいんだろ?」
呆れたようにコプチェフに言う。
そうだねぇ……とニヤつきながらかえされた。
『そんな文句言うんだったらコプチェフがちゅーすればいいのに!』
マリカとコプチェフのやり取りに、役者の奴らが笑う。
今は役者、大道具、小道具でパート別の練習だからそんなに人数はいない。
だがこのやり取りは自分も絡んでいる為、かなり恥ずかしい。
コプチェフにキスするとか、マジであり得ねぇ。たぶんマリカが相手じゃなかったら役を下りてたと思うし……
「まぁまぁ、頑張ってやってよ。俺じゃ意味ないだろうから」
ちょ、俺の方を見ながら言うなよ! コプチェフの野郎、絶対楽しんでんだろ……!
『もういっそのことキスシーン無くせばいいのに』
「あんな自称監督の変態野郎なんざほっといてさっさと練習すんぞ」
「ちょっ、酷くない!?」
(大丈夫、俺に任せろ)
((本番でなんとかするからよ))
((……つっても本番は明日だけどな))
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