00.涙 |
彼は泣いていた。声を殺して泣いていた。ときどきこぼれる嗚咽。彼は幼い子供のように見えた。なぜ泣いているのかは彼と彼の傍にいる一匹の黒猫だけが知っている。 騒がしい商店街でここだけが沈黙となる。私はゴクリとつばを飲み込む。 ひとまず落ち着いた彼はそばにあった花を一つ手に取ると私の方へ持ってきた。 「これ、ください」 泣きはらした目は赤くなり、頬はりんごのように紅潮していた。 「包装しましょうか」 私が聞くと、彼は頷いた。 「ミャォ」 黒猫は彼に近づき、彼の足に体を摺り寄せた。彼は黒猫を抱き上げると腕を力ませ、目を閉じた。私は包装し終わった花を持って、ただ静かにその様子を見つめた。 page:Bookmark |