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雨と迷子

 雨だった。朝はからっと晴れていたのに、昼ごろから急に降りだした。天気予報のお姉さんなんてあんな可愛い顔をして、結局は嘘つきなんだ。世の中、みんな嘘つきなんじゃないか、とさえ思う。
 ここ二週間、ものすごく忙しかった。日曜も会社に出勤し、馬車馬のごとく働いた。部下を怒鳴ってばかりの上司に、上司の顔色を窺ってばかりの同僚。「馬鹿みたい」って思う。でも、私もそんな馬鹿の一人。
 久しぶりにゆっくり出来る週末。寝坊して、ブランチを食べて、それで買い物に出かけた。二週間たっぷり働いた自分へのご褒美。可愛い服を買って、お気に入りのカフェでコーヒーとケーキを頼もう。きっと、神様も怒ったりしない。
 それなのに、雨が降るなんて。
 コンビニで買ったビニール傘をさして、ゆっくり歩いた。雨は残酷だ。何をする気も起こらなくなる。
 そんなときに彼を見つけた。繁華街の道の端で、傘もささずにびしょ濡れのまま立っていた。ちらっと彼を見てそのまま通り過ぎる人もいたし、何もないかのように通り過ぎる人もいた。ふん、と鼻で笑ってやる。
 私も何もないかのように通り過ぎた。「ダメだよ」なんて思う私もいたけど、「じゃあ、かまってどうするの?」と思う私もいた。きっと後者が本心。
「お姉ちゃん」
 後ろから幼い声が聞こえた。振り返ると彼が立っていた。猫みたいにちっちゃくて、前だけ見て歩いてたらきっと気づかない。
「これ、落としたよ」
 彼はにっこり笑って私に鍵を手渡した。
 一瞬思考がフリーズして、そして「面倒なことになったな」なんて思う。でも、それを楽しんでる自分がいることに驚いた。
「ありがとう」
 私もにっこり笑う。
「キミ、迷子なの?お父さんとお母さんは?」
 私は彼にもかかるように傘を傾け、ハンドタオルを手渡した。彼は幾分かほっとしたように顔をごしごし拭いた。
「……うん。道が分かんなくなっちゃった」
 彼はうつむいて小さな声で言った。「そうねぇ」と私はゆっくりできる場所を探した。目についたのは全国チェーンのファストフード店。
「ね、お腹すいてる?」
 彼は小さく頷いた。

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