ファストフード店で彼はポテトとハンバーガーとコーラ、私はコーヒーを頼んだ。窓際の席に二人で座る。 「おいしい?」 彼は「うん」と頷いて、ハンバーガーを頬張った。 こういうときはどうすればいいのだろう。まず彼の家に電話すべきなのだろうか。それとも警察だろうか。 「今日、雨だね」 唐突に彼は言った。 「うん。お姉ちゃんの計画も狂っちゃった」 そう言って笑うと、彼は「計画って?」と首をかしげた。 「……つまらない計画よ」 私はコーヒーにミルクだけ入れて、くるくるかき混ぜた。一度濁った液体がやがて澄んだ色になる。 「ね、お姉ちゃん。空、好き?」 彼はくりっとした目で言った。 「特に好きでもないけど……」 「僕は好き」 彼は空を見上げて言った。 「パパが教えてくれた。この空は世界とも、天国とも繋がってるんだ、って。だから、空を見上げたら寂しくなくなるよ、って」 彼はにっこり笑って言った。 「そうね」 私も彼と同じように空を見上げた。重たい鉛色の雲が空をおおっている。とても世界や天国に繋がっているようには思えなかった。 「……ママとパパ、心配してるかな」 彼はため息まじりに言った。その言葉で私ははっと我に返る。 「家に連絡して迎えに来てもらおう。電話番号、分かる?」 彼は頷き、私から携帯電話を受け取ると慣れた手つきで番号を押した。 「もしもし」 電話に出た、彼の母親らしき人はひどく動揺していた。 「あの、私は小泉桜という者です。お宅のお子さんが迷子になっていたんで、今おあずかりしているのですけど……」 出来るだけはきはき話すよう努めた。誘拐犯なんかに間違えられたりしたら、たまったもんじゃない。 「ああ、良かった。ありがとうございます。……息子に代わっていただけますか?」 母親は心底ほっとしたように息を吐いた。「良かった」と何度も繰り返している。 page:Bookmark |