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 亮介の家で延々といろんなCDを聴きあさっていると、時間がいつの間にか過ぎてしまう。左手首につけた腕時計で時間を確認し、鞄を担いだ。
「もう帰るのか」
 亮介はレポートの作業をいつの間にか終えて、私が流しっぱなしにしていた音楽を聴いているようだった。
「うん。じゃあ、今日はCDありがと」
 私はそう言って、亮介の部屋を後にする。亮介とはこんな風にあまり話さない日もあれば、話が盛り上がる日もある。亮介だったら沈黙が苦にならないし、亮介は特に何も聞いてこない。「学校はどう?」だとか、「今日は何した?」だとか。そういうところが好きだ。
家までの数十メートル。西日が目に染みる。日が落ちるのが前より少し早くなったのが分かる。
「ただいま」
 リビングの方から「お帰り」と母の機嫌良い声が聞こえた。
 家はあまり好きになれない。別に虐待されているわけでも両親の喧嘩が激しいわけでもない、優しい両親と一人の弟がいる、ごく普通の家庭なのだけれど。その「普通」が何となく息苦しい。
「今日も勉強してきたの?はかどった?」
 私は学校で放課後勉強していることにしている。亮介の家に入り浸ってるなんて、絶対言えない。仮にも私は「女の子」なのだし。
「うん。まあまあ」
 私は少しの罪悪感を胸に自室に向かった。
 自分の部屋に入るとすぐにコンポに借りたCDを入れた。読み込み時間でさえ待ち遠しく感じた。流れてくる音楽に私は身をゆだねる。部屋が好きな音楽で満たされる。それだけで幸せな気持ちになれた。
「あれ?またCD買ったの?」
 弟の海斗が部屋に入ってきた。こいつはいつも間が悪い。
「借りたの」
 私はぶっきらぼうに答える。「ふうん」なんて言って、海斗は私の手元のCDケースを手にとって眺めた。私はそれをすぐにでも奪い返してやりたい衝動にかられる。
 海斗とは音楽の趣味が面白いほど合わない。海斗の部屋でいつも流れる音楽は私にとって理解不能だったし、海斗にとっても私の部屋に流れる音楽は理解不能なのだろう。
「それで、何か用?」
海斗はようやくCDケースを戻し、私は幾分かほっとしたような気持ちになる。
「バンドでまたオリジナル曲作ったから、また歌詞お願いね」
 海斗はそう言ってCDを渡してきた。海斗はバンドを組んでいる。中学生のくせして、なかなか上手い。オリジナル曲も作ったりしてて、私がいつも歌詞を書く。前に海斗が歌詞を書くのに苦闘しているのを見て何となく書いてみたら評判が良かったらしく、それ以来私が歌詞を書く役目になってしまった。海斗たちの作る曲はすごいとは思うけど、好きにはなれない。そんな人間に歌詞を書かれる曲たちもかわいそうだ。
「分かった。明後日ぐらいまでには書いとく」
 それでも、私は承諾しちゃうんだ。無責任に。何も考えずに。


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