誰かが遠くで私を呼んでいるような気がする。目を開けても、そこには誰もいないのに。 私は川原の岩に座っている。そこに座って考えごとをするのが好きだ。昔から、どうしようなく苦しいとき、私はよくここに来た。ここだけが私の全てを理解してくれている。弱さも強さも。 「帰ろうか」 私は呟いて立ち上がった。闇が光を侵食していく。 玄関の戸が重く感じる。 「ただいま」 「お帰り」 家の奥から声が聞こえた。 「どこ行ってたの?というか、昨日、またお母さんたちの手伝いサボったでしょ?」 姉が責めるような眼差しを私に向け、髪をかき上げた。金色に近い茶髪の髪がさらさらと指からすり抜けるのが見えた。 「うん。ごめん」 私は答えて、コップに水を注ぎ、一気に飲み干した。 「それで、どこに行ってたの?」 姉はもう一度聞いた。 「……別に」 私はあの場所のことを誰にも言ったことがない。 「まあ、いいよ。とにかく、今日からちゃんと手伝いだけはするのよ」 姉はそう言って、テレビを観始めた。 「うん」 私は夏休みの宿題をする。音楽を聴きながら問題を解いていく。集中できない。最近、いつもそうだ。私はため息をつき、シャーペンを机の上に放り投げた。 姉はどんどん変わっていく。昔はあんなに派手じゃなかった。 page:Bookmark |