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「どうしたの帝」
マサさんが聞くと帝さんは周辺を気にしながら静かにするよう言っていた。 さっき枝を揺らしただけで帝さんは俺たちの気配を敏感に感じ取った。
「…周りには誰も見えないけど…」 「いや、いる…」
これでは見つかるのも時間の問題だ。 俺は絶対に捕まりたくないんだ。
(っ、…!別行動しよう) (へ?)
真哉が小声で言った。 今別行動すると俺逃げ切れる気しないんだが…
そう思っていると真哉はごそごそと制服の上着からあるものを取り出した。
(憂ちゃんは眼鏡とコンタクト外してこれ被って)
真哉が差し出したのは俺の地毛の色の鬘だった。
(なんで持ってんだ?!) (説明は後。春、憂ちゃんの眼鏡つけて)
言われた通りに眼鏡を外し、春に渡す。森と言えど隙間から光がこぼれていてきつかった。あー涙出てきた。
「…近くにいるぞ」 「…出てきませんね…」
「こそこそしやがって…探すか」
とうとう帝さんたちは動き出した。しかも野生の勘というべきか、まっすぐ俺たちのいる方向に向かってきた。怖すぎる。
(僕たちがあっちに逃げて会長達を引きつける。憂ちゃんは反対側に逃げて、会長達をまいたら連絡頂戴。合流しよう) (わかった) (じゃあ、春行くよ。春は憂ちゃんのフリして。じゃあ行くよ)
ガサッ
春と真哉が二人で先に降りる。無事に着地した二人はすぐさま校舎のほうへ走り出した。
「いたぞ!」
真哉達にすぐ反応した2人。
「水野くん、!てことは、」 「待て!憂は逃がさねぇ…!」 「手ぇ出させませんって言いましたー!」
会長は、春を本当に俺だと思っているらしく追いかけた。それに対してより引き付けるためか真哉は長髪をしていた。
この森は広い。森を抜けずに逃げきらなければならない。森の中で眼鏡を受け取らないと。裸眼で森を抜ければ俺は逃げ切れない。
森の奥に逃げよう、と決心した俺は木から降りてダッシュした。
ガサッという音を聞き取った二人はすぐさまこちらに意識を向けた。やはりそう上手くはいかないか…。二人がそのまま向かってこなかったらラッキーと思っていたんだけど。
「っ!ユウ!」
マサさんの声が聞こえる。あれは動揺している声。
「帝!ユウだ!」 「何っ!、憂とユウ両方現れやがって!」
「二兎を追うもの…ってやつだね」 「本当だな」
どちらを追うか…一瞬の迷いが2人とも失った。
俺は、がむしゃらに走っていた。できるだけ、二人から離れないと。そうしたら、人にぶつかった。
「あ、すみません」
木々の隙間から光が零れる。眩しくて、俺は目をつむる。逆光で人の顔は一瞬でも見えなかった。
「あんた!…『ユウ』だね」
誰…?俺のことを、知っている…?
この時俺は、忘れていた。自分が…『ユウ』がこの学園でどう思われているかを。
「田中憂にしようと思ってたけど、あんたでいいや」 「やっちゃう?」 「やっちゃおうか」
光が目に入って涙が止まらない俺は俯いた。
「なに、泣いてんの?」 「泣いて謝ったって許さないから」
「…、なんで」
「あんたの存在が邪魔なんだよ!あんたさえいなければ…」
邪魔… 俺は邪魔なのか…?
俺が、いなければ…みんな幸せ、なの…?
「おれが、いなければ…」 「あんたがいなかったら生徒会の皆様だってせーせーするんだよ」 「お前がいるから僕たちは…!」
「あんたなんて、壊れちゃえばいいんだよ」 「あんたのその顔見てるとイライラする」
言い放たれたその言葉は俺の心を傷つけるのに十分すぎた。
『あんたの顔見てると吐き気がするわ。そんな目であたしを見ないで』 『気持ち悪い』
決して殴られたりはしなかった。それでも、俺はぼろぼろだった。
「もういい。早くやっちゃって」
ガサガサっと奥から人が現れる
「はいよって」 「意外と綺麗じゃん」 「てっきり平凡相手かと思って萎えてたけど」 「これなら俺 タつわ」
呆然としている憂の後ろからガタイのいい男たちが出てきた。これからされるであろうことは憂もなんとなくわかってはいたが、体が動かなかった。
「リボン首に巻いて可愛いなぁ」 「り、ぼん…?」
あぁ 色先輩がやった奴だ…。ぼーっとそんなことを考える。
「声、綺麗だな」 「啼かせてぇな」
男たちを見上げる憂だったが日光を受けすぎた弱い瞳は人の姿をシルエットでしか移せなかった。これ以上日を受けるのがつらくなった憂は静かに目を閉じた。
「なに、誘ってんの?」
男は下品な笑みを浮かべながらYシャツのボタンをはずていった。そこから見える白い肌に男たちはつばを飲み込んだ。
「肌、しろ…」 「…えろ…」
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