「家で過ごす!?」
「大声出すなよ」

暑いから嫌だとソファーに寝転ぶイッシュ最強トレーナー様、トウヤは寝ころぶ向きを変えた。この暑い夏の時期、是非とも一番道路脇の水道へ向かいたいといった私の主張を一喝しやがった。あなた本当に昔旅してたって言うの!?

「家でナマエとのんびりしたいって言ってるんだけど」
「ぐっ…そんなデレを見せたって惑わされないんだから!どうせろくなこと考えてないんだし!」

てい、とテレビの電源を落としてやるとトウヤは恨みがましくこちらを睨んできた。迫力がある、怖い。こんなところで目力使わなくっていいってば!

「いくよー!」

そんなこんなで、ぐいぐいと引っ張って連れてきたのはいいのだけれど、いざ辿り着いてみると水道の先の連絡通路の電光掲示板は真っ黒だった。故障かと尋ねてみると、特に観光名所がないので、と説明される。う、うそでしょ!?

「だから言っただろ、行きたくないって…」
「でも水道が続いてるんだし何か発見があるかもって思うじゃん!」

っていうかなにも無いのを知ってるなら先に言ってよ!と思うも、トウヤは我関せずといった雰囲気だ。まあね…無理矢理連れてきたのは私だし…。
でも、以前からこっちの水道の先が気になってたし、先日漸く波乗り出来るポケモンをゲットしたから喜び勇んで来ちゃったのは仕方ないって言うか。当たり前というかなんというか、トウヤが帰ろうと提案しだし、頷きそうになるのを止める。
ま、まあ折角ここまで来たんだし、観光名所がなくっても何かしらあるでしょ!旅に出てない引きこもりの幼馴染みのために、もう少しくらい付き合ってよね!

「広い!!波乗り出来るとこんなに世界が違うなんて!!」
「何もないじゃん…」
「うるさい!見てよこの広い島みたいな!基本カラクサタウンまでしか行かないし足をのばしてもサンヨウが限界の私の辞書にはない世界だよ!」
「へえ…」

既に無気力状態に突入したトウヤの隣を併走しながら眼前に迫る緑を見上げる。なんで感動しないの!?あんまり感情の起伏の激しい方じゃないと思うけどさ、バトルの時なんかすっごい楽しそうなのに!くそ、旅に出たらもっと凄く広い場所があるってか!?これだからトレーナーは!!私も面倒がらないで旅に出とけばよかったよ!

「…トウヤは凄いね!」
「は?突然なに」
「だってこれよりずっと広いところを旅して来たんでしょ。流石!」

海風に煽られる髪を押さえつけながらテンションの高ぶるままに凄い凄いと連呼すると、トウヤは口をつぐんだ。単純なやつ、とこぼすのは風で流されて届かなかったことにする。うん、トウヤも手放しに誉められるのは満更でもないみたいだ。

「あそこの砂浜まで競争しようよ!」
「そんな子供っぽいことするわけないだろ」
「じゃあ不戦勝だね…ちょっ、待ってよ!子供っぽいんじゃないの!?」

喜ぶ私に突然波乗りのスピードを速めるトウヤ。ナマエに負けるのは癪だからとしぶきの中から声が届いた。そ、その方がよっぽど子供っぽいと思うんですけど!?


***


夕方頃まで島を周り、一通り旅気分を満喫した私達はもときた道を戻った。腰のポシェットには新しく捕まえたポケモンのボールがついていて、気分は上々、なんだけれど。

「はあ…疲れた…。ね、トウヤの家で捕まえたポケモンの整理しようよ」
「とかいって俺がもう持ってるポケモンを貰おうとしてる?」
「え!…ええ…?そ、そんなことないよ…」
「ホント、嘘の下手なやつ」

本日何度目かの呆れ顔から視線を逸らし、私はその場を濁したまま勝手知ったる人の家、とトウヤの家のドアを開き、バタバタ二階へと駆け出した。後ろから階段を上る音がついてきて、少し遅れてトウヤも腰を下ろす。

「さあさあトウヤ!持ってるモンスターボールを出して!」
「…それより」

伸ばした腕を自然な動作でとったトウヤとの距離がぐいと近付く。驚いて引こうとした頭はもう片方の手に抑えられて、そのまま強引に唇が重なった。

「とっ、ととと、トウヤ!?」
「うるさい、黙ってて」

そんな理不尽な!と反抗しようとするとその言葉ごと飲み込まれてしまう。目の前のことに精一杯で、居場所のない手のひらがトウヤの服を掴むと、目の前のトウヤは満足げに笑った。

「日中はナマエの出掛けに付き合ってあげたんだから、これ位は良いよね?」

これ位って、と顔が熱くなるんだけれど、そのまま首筋に落とされたキスにどうせ抵抗しても無駄だって分かった。私はこちらを見つめる瞳の中に溺れていきそうで、強く目を瞑った。


君と一緒の、休日の過ごし方

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20130706


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