※カウントダウンの作品により、原作と違うかもしれません。ご容赦ください。






「ここであったが百年目よ!勝負しなさい!」
「うわっ」


なんでこう回復ポイントがないところで来るんだ?と苦い顔をするポケモントレーナー、その名もカルム。意気揚々と旅に出た私の初バトルの相手であり、私をめためたのぼこぼこにしてくれたトレーナーだ。主に精神面で。彼のせいで私はトレーナーズスクールに逆戻り、しばらくの間トレーナーに向かないんじゃないかと必死に考え込んでしまったほどだ。自信をなくすも先生に後押しされいざ再スタートしてみたら、今度は驚くほどサクサク旅は進んで無事自信は私の元に戻ってきた訳だけど。


「私は!あなただけが倒せないのが気に食わないの!さあバトル!」
「オレたまにキミがフレア団のしたっぱよりめんどくさいと思うよ」
「言ってなさい!今から賞金を渡すことになるのはそっちよ!」


強気に叫んでびっ、と指先を向ける。正直なところ、本気で勝てると思ってるのかと言われたら、答えはノーなんだけど。でも、こうでもしないと私はこのトレーナーと普段の調子でのバトルすら出来ないのだ。嘘かと思うかもしれないけど、あまりにも圧倒的な差がある時、人って真っ正面から立ち向かうのすら怖くなるときがある。それを感じている限り、どう転んだって私に勝ち目がないのは目に見えているのだけれど。それでも、トレーナーなら、何万分の一でも勝利にかけるしかないでしょう!


***


数分後、私から賞金を貰って笑顔のカルムがそこにいた。


「う…つ、次こそは…」
「バトルは良いんだけど、今度はポケモンセンターの側とかでよろしく」


視線を向けるとカルムは戦利品を意気揚々と鞄に閉まってこれでまた傷薬が買えるな、なんて言っている。
なによ、余裕綽々って顔しちゃって!
くう、と下唇を噛むと先程のバトルが再び頭によぎった。勝負を仕掛けた私が負けるなんていうのは普段のセオリー通りだったけど、今日のは特にひどかった。1ターン目、彼のポケモンに先制されてから手も足も出ないまま、まさかのパーフェクトゲームをやられるなんて。


「折角疲れてそうなところを狙って来たのに…容赦なさすぎ!」
「あはは、ごめんな。確かに大人気ない戦法だったかもしれないけど、今日のは」
「本当よ!たまには手加減してよ!」
「ごめんって」
「…悪いと思うなら、一回くらい負けてくれたっていいんじゃない」
「それは無理」


反省の色を欠片も見せずに人の良い笑顔を浮かべるままのやつに冗談で言ってみれば、そこには至って真面目な声で即答が返ってくる。その返しがあまりにも素早くてはっきりしているもんだから、つい先刻までとのギャップにこちらがびくりとしてしまった。
な、なによ、急に真剣な顔するんだから!心臓に悪い!と勝手に憤る私の心などいざ知らず、その真っ直ぐな淡い群青色の瞳が私とかち合って、きりりと結ばれていた唇がそっと開かれる。なんていうか、流石強いトレーナーっていうのは、バトルのこととなると違うものだ。
…ま、そうよね。そうでなくてもわざと負けるだなんて、トレーナーとして無理な話…


「だって好きなやつに負けるのって、かっこわるいし」

ん?

…あれ?とハテナマークを浮かべる私にじゃあ、とひらひら手を振って去っていくトレーナーの後ろ姿。想像していたのと幾分も違うその意味を咀嚼して、考え込んで、それから真っ赤になって、私は慌ててその背中を追いかけた。




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20131010
二日前をお祝い。

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