一方通行 | ナノ






ロストタワー近くで出会った男の子が何故かエンジュにいた。エンジュジムへ向かおうとしていた足を止め、歌舞練場前のそんな彼を見る。赤い髪というのは目を引くし、それ以前に私の知り合いでもある舞妓さん達と道端で大声で話し合っていたのだからそれはそれは目立つものだ。人だかりも出来ていたことだし。


「もう一度バトルしろって言ってるんだ!!」


「今日は都合が付きまへんのです」


周りのお客様の事を考慮してかコウメさんはしたたかな声で諭すように彼をたしなめている。それでも中々彼は引かないようで、お節介とは思いながらも着物の袖を引いて困り顔のタマオさんに近付き、話しかけた。


「あの…タマオさん」


「ああユカリはん!こんにちは」


ご丁寧にお辞儀まで付けて挨拶してくれたタマオさんに笑顔で返すと男の子が場に入って来た私を怪訝そうに見て、それからふと思い出したように


「…お前、確か前ロストタワーで会った」


と口にした。突然「タマオさんが困ってるでしょ!?絡むのは止めてあげてよ」なんて単刀直入に言う度胸は残念ながら私には無く、さり気なくやんわりと「今日は無理みたいですよ」と言うつもりだった私は予想外の彼の言葉に間抜けな反応を返してしまった。


「あ、ユカリです」


なんと続けて良いものか分からなくなり名前を告げると俺はシルバー、と言われる。シルバー…シルバーくん。直ぐに踵を返し舞妓さんと再び交渉を始めたシルバーくんを引きとめることも出来ずもどかしく見ていると、やあ、と声がした。


「こんにちは。ユカリ」


「ま、マツバさん。こんにちは、ジムは…」


「今の時間帯はお昼時で丁度暇だから」


心配しないで、と微笑まれる。その笑顔の威力は絶大だ。どくん、と心臓が跳ねる。やっぱりかっこいい。そんなことを私が考えているとも知らずにマツバさんは私に顔を寄せて小声で聞いてきた。


「ところで…あの男の子と知り合い?」


「えっ、はい、まあ…この間ロストタワーで会って…それだけと言ったらそれだけなんですけど!」


「そうか」


緊張に慌てる私にマツバさんは目を細めて笑い、ところでユカリも暇なら一緒に町を散策しないか、と誘ってくれた。断る理由なんて思い付かないし、一緒にいられるなんてそれに越したことは無い。どもりつつも「勿論です!」と肯定で応えればいつかの様にじゃあ、と有無を言わせず手を握られた。私とマツバさんの歩幅の差の真ん中で繋がれた手が熱を帯びる。だって以前と違ってここは公共の場だ、色んな人に見られてるのに。マ、マツバさん、恋人でもない人とこんなことして良いのかな。それとも天然なの…!




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