Metempsychosis
Material Note

圧勝

ダンッと強く壁に叩きつけた長身の男を最後に見やり、息も切らしていないカンタビレは静かに剣をしまった。

「いってぇ…マジかよ…」
「つ、強い…」
「ああ…、驚いた、な…」

口々に言う3人だが、実際流血するような怪我は負っていない。
ただ、急所を思い切り殴られた為に、痛みで動けないのだ。

「男はまぁまぁ、少年はまだまだ」

そう評価を下しながら、カンタビレはゆっくりと3人に歩み寄った。
そして誰よりも先に伸した女を見下ろし、

「あんたに至っては、話にならない」

ばっさりと言って捨てた。

「…悔しいが、その通りのようだ…」

女は途切れ途切れに答える。
自分の弱さをあっさり認めた女に、カンタビレは内心で笑った。
嘲ったのではない。
面白いと、そう思って笑ったのだ。

「それで?あたしに負けたあんたはどうするんだい?」
「どうするも何も、次を探す他あるまい」

先程まではあれだけ粘ったにも関わらず、あっさりとそう答える女から、急いていた気配が消えたのにカンタビレは気づいた。
まぁ、これだけの力量の差を身をもって実感した所為もあるのかもしれないが、それにしても、

「ぶっ…くくく…、やっぱり…面白いねぇ…あんた…っくくっ…」
「ん?そうだろうか?」

くつくつ笑い出したカンタビレに、3人は戸惑っているが、構いはしなかった。

カンタビレは知っている。
こういうタイプは、強くなる。
何事も素直に、あるがままに受け入れる奴は、限界を考えない奴は。

それに、と笑いを収めたカンタビレは女の前にしゃがんで言った。

「…………気に入った」
「ん?」
「え?」
「はぁ?」

三者三様の反応を楽しみつつ続ける。

「あんたがもう少しマシになったら依頼に付いて来てもいいよ」
「えぇ?」
「そりゃどーいう心境の変化よ?」

戸惑いMAXの少年とは違い、言外に『これだけ叩きのめしたくせに』と言いたげな男は、少し拗ねているようにも見える。
女の自分に負けたのが悔しかったのか?とも思ったが、カンタビレは気にしない。

「勘さ」
「はぁ?」
「だから、あたしの勘さ」

最初は、この依頼に何かあるのかと思った。
しかし、女と睨み合った瞬間思ったのだ。

この女には、何かある…と。

女と関わった先に帰る為の手掛かりがあるかは解らないが、自身の勘を無視する理由もない。

「ただし報酬は折半。それでいいならだけどね」
「構わない。宜しく頼む」

自分を叩きのめした相手にも変わらないこの態度。
カンタビレから悪意を感じないからなのか、単純に鈍いのか。
どちらにせよ………、

(やっぱり面白いねぇ…)

そう内心で笑いながら、カンタビレは女に右手を差し出した。

「カンタビレだ。あんた達は?」
「ミラだ。ミラ・マクスウェル」
「僕は、ジュード…ジュード・マティス」
「アルヴィンだ」

握り返された手を引っ張って立ち上がらせて、漸く互いに名乗った。

それが、カンタビレと彼等との出会い。



執筆 20120402



あとがき

どうしよう!超楽しい!

主人公達を叩きのめすのが?

NON!

最強っぽいカンタビレを動かすのがです!
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