Metempsychosis
Material Note

こんにちは、くまさん。

それは恒例化したといって差し支えのなくなった紅邵可邸での四日に一度の夕食の日、秀麗が邸前で拾っちゃった浪燕青と名乗る髪も髭もぼさぼさぼーぼーな不審者と、家人である静蘭が(静蘭は塵程も望まぬ)再会を果たし、胸ぐらを掴んだ挙げ句に余計な事言ったら首カッ飛ばしちゃうぞ!なーんて本気の脅しを燕青が飄々と笑った時の事だった。

ぱたり、ぱたぱたた…ぱたり、と、聞いただけでも何とも不安定かつ頼りない足音がして、燕青と静蘭が揃って発信源の方を振り向けば、かなーりの枚数が有るだろう料紙を抱えてよたよた歩く、華奢な背中が見えて、

「愛鈴お嬢様!」
「!!」
「え?姉様?」

静蘭の声が聞こえた秀麗が室から再びひょこっと顔を出した先で見えたのは、しまったと額を抑える静蘭と、ぽかんとした顔の燕青。
そして、

「あらあらあら〜」

持って歩いていたのだろう大量の料紙が滝の如くその細腕から流れ落ちるのを、困ったわ〜なんて言いそうな(でもちっとも困ってなさそうな)顔で眺める愛鈴。
本人なりに何とかしようとしているのか、その場をあっちこっちにくるくる回るものだから、滝化した料紙はより満遍なく床にバラ撒かれて………、って!!

「きゃ―!何やっちゃってるの姉様―!!」

我に返った秀麗が慌てて室を飛び出したものの、料紙は愛鈴の手に僅か一枚残っただけで、ほぼ総ての大量料紙が敷物かのように床一面を埋め尽くしていた。

「あらあら、大変」
「も、申し訳ありません、愛鈴お嬢様。私が突然声を掛けたばかりに…」
「あら、私もぼんやりしていたのだもの。静蘭の所為ではないわ。……あら?」
「ん?」

謝る静蘭にのほほんと微笑んだ愛鈴は、漸く燕青に気づき、見覚えのないもさもさぼーぼー男にこてんと首を傾げる。
そして暫しの後、パッとその母親譲りの美しい顔を輝かせ、料紙の中心でにっこりと一言。


「こんにちは、熊さん」


すっかり熊さん燕青に気を取られてしまった愛鈴の手から零れ落ちた最後の料紙が、ぱさ…と虚しい音を立てて、落ちた。




執筆 20110709
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