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Q&A

※Not本編設定!
人物は輪廻主ですが、この話の彼女は一般人です。
時間軸は本編前位。

***************

Q.朝、全く覚えのない部屋のベッドの中で目を覚ましました。
しかも下着姿です。
さて、貴方はどうしますか?

A.マリク・シザース(40)の場合ーーーーーー

(……、何処だ?)

ーーーーーーーーーーとりあえず、状況把握。

ガンガンと間近で鐘を打ち鳴らされるような頭痛に目を覚ましたマリクは、不用意に動いたり声を出したりせず、覚えのない室内に神経を尖らせた。

人の気配の無い事を確かめて起きあがると、ぐわんと視界が眩むように歪む。

「……っう…」

この感覚には覚えがある。

ーーーーーー…二日酔いだ。

数秒掛けて何とか目眩が治まり、マリクは漸くゆっくりと室内に視線を巡らせた。

質素な部屋、それが端的な印象だった。
一瞬、宿かとも思ったが、すぐに否定する。
質素と言えば聞こえは良いが、言い換えれば何一つとして特徴的な物が無い、無さ過ぎる。
これは最早宿と言うより……そう、空き家のような部屋だ。

何故そんな部屋に寝ていたのかと、マリクは痛む頭を抱えて昨日の記憶を思い出そうとした。

仕事終わりにバー・タクティクスに立ち寄ったのは覚えている。
カウンターで隣になった旅人と馬が合い、なかなか楽しく酒を重ねて………
それ以降の記憶が全くなかった。

何故自分は半裸で空き家のような部屋に寝ている?

そんな疑問を抱きつつ、とりあえず身支度を整えようとベッドから抜け出した時、

「あら、おはようございます、マリクさん」

柔らかな声が聞こえ、マリクは息を呑んだ。

それもその筈。
その声には聞き覚えがある。

そう。
相手は…ーーーーーーー

「…フィエラ…?」
「はい?」

バー・タクティクスのウェイトレス…ーーーーーーーフィエラだった。



「……………すまん」

長い長い沈黙の末、マリクの第一声は謝罪だった。
何に対する謝罪かと言われれば本人にも分からない。
野郎の見苦しい下着姿を晒してしまった事にか、はたまたマリクを起こしに来た様子のフィエラへの労いか。
『致して』しまったかもしれない事実への予防線とも思える。
とにかく謝らなくてはと反射的に口に出して、姑息な謝罪をしてしまった自分を殴りたくなった。

そんなマリクに、

「あら、謝って頂く覚えがないのですけれど」

フィエラはきょとりと数回瞬いた後、クスクスと笑った。

「………は?」

以前とあまりに変化無い態度に、『致して』しまったとばかり思っていたマリクはおや?と首を傾げた。



半裸状態で話すのは…と、マリクが身支度を整えるのを待ち、2人はベッドに並んで腰掛けた。
(この部屋にはテーブルや椅子が見受けられない)

ーーーーーーフィエラが説明してくれた内容はこうだ。

昨夜、タクティクスを訪れたマリクは、馬が合った旅人と他の客の数人で飲み比べの末に酔い潰れた。
(酒に強いと自負する自分が潰れる程呑んだのだ。
今苛まれている二日酔いは当然とマリクは思った)

潰れた客は、マリクも含めて起きそうも無く、マスターと相談した結果、店に一晩泊める事になった。
しかし、店内のソファは大人が2人でもう定員オーバー。
お客様を床に転がす訳にも、と悩んだ結果、一番安全度の高いマリク(この時すでに上半身裸だったらしい)を、バーにあるフィエラの部屋にマスターが運んだらしい。
勿論、フィエラはその夜だけ宿に泊まるつもりで。

ところが、

「マリクさん、私を枕か何かと勘違いなさったみたいで、」

ベッドに転がされたマリクは、暑いとばかりに下着姿になった。
そんな彼の衣服を拾おうと傍に寄ったフィエラを、マリクはあろう事かベッドに引きずり込んだ。

「………………」

自身の醜態に言葉も無く俯くマリクを余所に、フィエラはニコニコと続ける。

「マリクさん、力がお強いからマスターの手を借りても抜け出せなくて、仕方がないからそのまま」
「そのまま!?…っう!」

聞き捨てならない言葉にガバッと頭を上げたマリクは、直後に襲った頭痛に直ぐに沈んだ。
慌てるマリクに対して、フィエラはあっさりと笑う。

「あら、勿論何もありませんよ」
「そ、そうか…、……?」

さも対象外であるようなあっさり具合に若干…いや、結構落ち込み、しかし『致して』なかった事に安堵する。
そんな複雑な感情を含んだ苦笑を浮かべたマリクは、ふと自分の右側に座るフィエラの横顔の違和感に気づいた。
気づいてしまった。

「珍しいな、フィエラがそういった髪型をするのは」
「えっ?」

僅かに声を上擦らせ、驚いたようにマリクを見たフィエラに、マリクの方が驚く。

フィエラは面倒なのか邪魔なのか、いつもは項で一つに纏めている。
フィエラ目当ての客に贈られた髪飾りを、しかし彼女は一つとして受け取らなかったし、髪型に凝る事は疎か、纏める位置を変える事すら無かった。
そんなフィエラが、長い髪を右側…丁度右耳の下辺りで纏めている。

「髪型の所為か、随分印象が変わっている」
「、あら、そうかしら?」
「ああ、いつもは綺麗な印象だが、今の髪型だと可愛らしいな」
「まぁ、ふふふ」

ありがとうございます、とふんわり微笑んで、マリクの天然タラした台詞(無自覚)を受け流すフィエラだったが、

「ん?フィエラ、ゴミが」
「やっ!」

不意に手を伸ばしたマリクから、フィエラは逃げた。
避けるなんて生易しい反応ではなく、明確な拒絶。

「フィエラ?」
「あ、ご、ごめん、なさい…。その…急だったので…ビックリしてしまって…」

ハッと我に返ったフィエラは謝ったが、その言葉で納得出来る訳もない。
珍しい…いや、初めて見る狼狽えた彼女を見て、マリクは思案する。

最初の変化は、纏める位置を変えた事を指摘した時の反応だ。
上擦った声、ぎくりと震えた肩をマリクは見逃していなかった。
そもそも何故突然髪型を変えた?
誰に何と言われようとも変えなかったのに。
更に言えば纏め方は緩く、長い髪が彼女の右側面、右耳や首筋から胸までを隠している。

…………隠す?

ハッとマリクはフィエラを見た。
最早二日酔いの頭痛など彼方に忘れていた。

「フィエラ、まさか…」
「あ、の…」

と、

「フィエラ、マリクさんは…と」

ひょっこりと、タクティクスのマスターが顔を出した事で、マリクはやむなく黙る。

「おはようございます、マリクさん」
「マスター、今」
「マスター、今事情を説明した所です。私は下で準備してますから」

言うが早いか、フィエラはあっという間に居なくなり、部屋にはマスターとマリクだけが残された。



それから数日、マリクはタクティクスに行けずにいた。
フィエラと会うのが気まずいから……ではなく、単純に仕事が多忙だった為に。

もやもやと渦巻く感情に苛まれる事一週間。
漸く仕事に区切りがつき、マリクは久し振りにタクティクスを訪れた。
勿論、客としてではなく、あの日の真実をフィエラから聞き出す為に。

しかし、

「辞めた!?」

フィエラは忽然と姿を消していた。

聞けば、5日程前に突然辞めると言って来たと言う。
理由を問うても言いたくないの一点張りで、結局一昨日の夜の営業を最後に、フィエラはタクティクスを辞めた。
住み込みだった部屋を出たのは昨日。
行き先も、マスターに語らなかったと聞かされて、マリクはカウンターに呆然とうなだれた。

やはり、あの夜『致して』しまったのだと、マリクは確信する。
何事も無かったような振る舞いも、意図して変えた髪型も、全ては一夜の過ちをマリクに悟らせない為のもの。
マリクはそれを暴こうとしたのだ。

傷つけた。
仕事を辞め、バロニアからも去る程に追い詰めた。
最低だ。

「俺は…いつもそうだ…」

二十年近く経つのに、何も変わっていない。
守るどころか傷つけるばかり。
そう思って、ハッと頭を振った。

フィエラはロベリアとは違う。
ロベリアは心から愛していた。
自らの嘘で彼女を死なせた。
フィエラとは違う。
自分はフィエラを、フィエラを…………?

マリクは浮かんだ言葉を飲み込むべく、マスターに酒を頼んだ。
間もなく出された酒を一気に呷る。

「許される、ものか…」

愛する人を死なせた男が、また、人を………………フィエラを、愛するなど。



執筆 20120721



あとがき

390,000hit御礼企画
仮名さんのリクエスト
『グレイセス マリクお相手で大人な恋愛がみてみたいです…っ』
を基に書いてみました。

輪廻主ですが、くっつきやすくするために、特殊な設定の無い一般人です。

大人な恋愛 → ハ○レクイン → 一夜の過ち的な話!という間違った方向に安直な思考回路でそれっぽい夢を目指したのですが、何故か悲恋風味になってしまいました;
一般人設定意味なし!

何故か?

途中だからです!

続きを書こうにも気力が尽きました!
続きは書きますが、難産になりそうな予感…;

そんな訳で、途中ですが出来立てほやほやを仮名さんに贈ります!
遅くなってごめんなさい!
リクエストありがとうございました♪

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