390,000hit Thanks Plan

旦那様の豹変

妊娠報告からジェイドが折れるまでの紆余曲折はありながらも、先頃カーティス夫妻に新しい家族が誕生した。

特殊過ぎる存在であるフィエラの出産という事で、ケロッとした当人以外が予定日が近づくにつれて大いにバタバタと万全を期していた。
それを余所に、予定日の6日前、妙に馴れた感じでフィエラがケロッと陣痛の始まりを告げ、周りが大慌てで病院に運び、妙に馴れた感じの「ひ、ひ、ふー」でスポン!と、本当にスポン!と出産。

周囲の緊張感を打ち砕く、あまりに呆気ない…なさ過ぎる命の誕生であった。

「おめでとうございます!元気な女の子です!」

分娩室から聞こえる泣き声をBGMに、看護士に報告を聞いたジェイドが、

「そんな事より妻は?異常ありませんか?」

それに何の興味も示さなかったのは言うまでもないだろう。



その後、念には念をとあらゆる検査をさせられたフィエラと赤ん坊。
ジェイドの待つ家に揃って帰って来たのは、呆気ない出産から1ヶ月以上が経つ頃だった。

それから更に3ヶ月程経ったある日。

ジェイドはいつもより随分早い時間に帰宅した。
施錠されていない玄関に若干皺を寄せながら、リビングに繋がるドアを開ける。

「フィエラ?」

声を掛けるも、返事がない。
繋がった造りのキッチンにも姿も見えない。
買い物か?とジェイドは首を傾げた。
しかし、いくら危機感皆無のフィエラであっても、出掛けるならば施錠するだろう、多分…して欲しい、不安で明日から仕事に行けなくなってしまいそうだ、本気で。
そんな溜め息を誘う妻の抜けっぷりを考えていた時、

「…ふにー…」

微かに声が聞こえ、ジェイドはハッと視線を巡らせるが、やはり姿は見えない。
と、そこで気付いた。

リビングにテーブルを挟んで対面する形で据えられた大きな3人掛けのソファ。
ジェイドから見て死角となる手間の背もたれから、ひよひよと見え隠れしている小さな手に。

近づいて覗き込めば、ソファに横になって眠る愛妻(と赤ん坊…名前は、知らない)が。

どう見ても育児疲れなフィエラに、ジェイドは深く嘆息した。

「だからあれほど乳母を雇うと言ったのに」

そう言って、ジェイドは漸くフィエラに抱かれる形でジッとこちらを見ていた赤ん坊に視線を移す。その視線は冷たく鋭利で、お前の所為だと言わんばかりに睨むようだった。
が、

「うゆ?」

赤ん坊は図太かった。
並みの赤ん坊であれば烈火の如く泣き出すだろうに、きょとりと大きな目を瞬かせただけで、欠片も脅えた様子はない。
図太いと言うより天然なのか。
だとすれば間違いなく母親似だ、と、ジェイドは初めて赤ん坊に感想らしい感想を抱いた所で、またまた初めてその容姿を知った。(興味が無かったので見ていなかったのだ)

瞳も髪も、父親の血はどこに消えたと言われそうな程の母親似の漆黒。
顔の造形如何はもう少し成長しなければ判断がつかないが、目と口元は母親似のように感じる。
これで性格が父親似であれば、ある意味最恐な人間の出来上がりだと言えるが、先程の反応を見るに母親似、なのだろう。
(演技の可能性もゼロではないが、流石のジェイドもこの位の年齢時は普通だった…筈だ。
末恐ろしい想像は考えなかった事にする。)

………益々、父親の血は何処、である。

と、

「あぶー」
「!」

赤ん坊はジェイドは遊んでくれないと判断したのか、あろうことか、フィエラを起こそうとするように、小さな手で彼女の頬をぺちぺちと叩き始めた。

勿論、叩くと言っても所詮は赤ん坊の力。
寧ろ軽く押す程度のものであったが、ジェイドはぐっと眉間に皺を寄せ、

「あう」
「誰の所為で彼女が疲れ果てていると思っているんです?」

素早く赤ん坊の襟首を持って(絶対真似してはいけません)愛妻から引き離した。

この時の冷笑たるや、凄まじいものであった。
それはもうルーク達であれば間違いなく悲鳴をあげて逃げ出すような凄まじい冷笑。
しかし、やはり母親似らしい赤ん坊は違った。

まず、にぱぁっと花が綻ぶ様に笑顔を浮かべた。
それはフィエラの輝くような笑顔に酷似していて、ジェイド・カーティスは軽く胸きゅんした。

「きゃーぅ!」

次いで、なんか物凄く喜んだ。
きゃっきゃと笑うフィエラ(幻覚)にジェイド・カーティスはなんかきゅんきゅんした。



それから、

「あなた」
「もう少し」
「でも、明日も早いんでしょう?」
「フィエラこそ疲れているんですから、ゆっくり休むといいですよ」

ベビーベッドからべったり張り付いて離れないジェイド、
赤ん坊に指をちゅっちゅとしゃぶられてデレデレにデレるジェイド、
将来の恋人抹殺計画を悶々と考える満面笑顔のジェイドなど、
そんな姿が、頻繁に目撃されるようになった。

『カーティス一家を見ると石にされる』

そんな噂がまことしやかに流れると、グランコクマは恐怖に震えた。



執筆 20120714



あとがき

390,000hit御礼企画
そらさんからのリクエスト

『ジェイドと夢主の夫婦ものの娘編が読みたいなと思いますヾ(=^▽^=)ノ』

を基に書いてみました。

書けば書くほどジェイドが崩壊してしまって危ない人になり掛けましたが、何とか…何とか保って頂きました。

私には「でちゅね」言うジェイドは許容出来ませんもの…!

そらさんには大変お待たせして申し訳ありませんでした!
楽しんで頂ける事を祈ります!

- 4 -
Prev | Next

Back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -