Metempsychosis
in Tales of Graces f
Guardarsi
ジリジリと焼けるような熱さに、フィエラの意識は急速に浮上した。
ぱちりと目を開いて見えたのは人肌。
今までになかった目覚めの光景に、何事かと目を点にしたフィエラが距離をとって確かめようと身じろぐも、なかなかにがっちりと抱え込まれているようで、もぞもぞするだけで終わった。
しかし、それが刺激になったのか、頭上で僅かに呻き声を上げると、それまでピクリとも動かなかった拘束がふっと解ける。
同時に離れた人肌との間に出来た隙間から射し込んだ日差しに、一瞬目が眩んだ。
と、
「ん?」
「あら?」
ころんと砂漠を背に転がったフィエラの上には、精悍で整った顔立ちで数々の女性達を天然タラしてきたマリク・シザース、その人が、いて。
「…………」
「…………」
ばっちりと目があったまま、何となく言葉もないまま見つめ合うフィエラとマリク。
内心ではこれはもしかして、とか思いながらもきょとりとするばかりのフィエラは、他者から見れば相当危機感が無いように見えるに違いない。
しかし、沈黙は長く続かず、
「………うっ」
「…う〜、暑い〜」
目を覚ましたアスベルとパスカルの声に、揃ってハッと我に返った。
「すまん。大丈夫か?」
「あ…はい…」
即座にフィエラの上から退いたマリクの手を借りて立ち上がる頃にはシェリアとソフィも目を覚ました。
「どうやら外に出られたようだな」
「コショウのお陰なのかしら?」
シェリアの言葉に、皆が今もアスベルの手に握られているお守りを見る。
「アスベル…ロックガガンどこ行ったの?」
予想外の事で役立ったが、中に入っていたコショウといい、不可解な点に首を傾げていたアスベル達は、つんつんと服を引っ張ったソフィに言われて、漸くロックガガンの姿がない事に気づいた。
「いなくなってる!?」
「どうやら街道の傍から退いてくれたみたいだな」
皆がキョロキョロと辺りを見回していると、何の偶然か、セイブル・イゾレであった男性がいて。
「お陰で街道が復旧した。ストラタを代表して礼を言うぜ。ありがとよ。しかし……君達あいつに何をしたんだ?」
「寄生虫が巣喰っていたようで、結果的にそれを退治しました。その後、出口が見つからなくなり困っていたら、これで…」
「これは、輝石の守りか」
アスベルの見せたお守りを見て言った男性に、アスベルは「あ!」と声を上げた。
「思い出したぞ!これは昔、俺がヒューバートにあげた物だ…。本当は砂状のクリアスを詰めるんだが、砂状のクリアスが見当たらなくて、コショウを詰めたんだっけ…。それをあいつ、今もまだ持っていてくれただなんて……」
フィエラは内心で苦笑する。
自分があげた事を忘れていたアスベルにちょっと呆れ、大切に大切に持っていただろうヒューバートに同情し、砂状の輝石が無かったからコショウを詰めたという子供の時のアスベルに微笑ましさを感じる。
「輝石の守りは持ち主を守ってくれる力があると言われているが…中身が砂の輝石でなくても効力があるのだな…。これであいつが暴れる事ももうないだろう。本当に助かったよ。君達がいなかったらロックガガンを殺さなくてはならなかったかもしれない」
「ロックガガン殺されない?」
「ああ、大丈夫さ。安心しな」
大らかに笑う男性にロックガガンが殺されないと聞いて、ソフィがほっとしたように微笑んだ。
そのまま立ち去ろうとした男性だったが、ふと足を止めてアスベルを振り返る。
「ところで、君達はどうして首都へ行こうとしているんだ?」
「苦境に立たされている弟を助けたいからです。その為に、この国の首都にいる、ある人に会う必要がありまして」
ほう、とひとつ頷いて、男性が思案するように僅かに目を細めた事に気づき、フィエラは首を傾げた。
「そうか。うまく行くといいな。さて、俺はそろそろ行くぜ。また会おう」
その僅かな間にアスベルは気づかなかったらしく、去っていく男性を見送ると、皆に振り返って首都に向かおうと笑う。
しかしフィエラは男性の去った方を見つめながら、何故それをわざわざ足を止めてまで訊いたのだろうと、内心で首を傾げていた。
と、
「フィエラ、出発するが、大丈夫か?」
「…!」
マリクにぽん、と肩を叩かれて、
「フィエラ?」
びくり、というか…
どくり、というか…
どきり、というのか…
自身にも言い表せない音を立てた鼓動に戸惑って、身を強張らせたフィエラは、
「…ぁ、いえ」
それを誤魔化すように、いつも通りふんわりと笑って、
「道中ずっとで申し訳ないですが、首都までもう暫く、よろしくお願いしますね、マリクさん」
ぺこりとマリクに頭を下げた。
執筆 20110623
guardarsi = [伊]互いに見合う
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