Metempsychosis
in Tales of Graces f

Sable Izolle

オル・レイユを出発して一時間足らずのうちに倒れたフィエラを抱え、セイブル・イゾレへと辿り着いたアスベル達。
街の入り口でマリクがフィエラを下ろすと、パスカルがうーんと伸びをして言った。

「ここまでは無事に来られたね。ロックなんとかが出るのはこの先だったっけ」
「街の人に話を聞いてみよう。何か分かるかもしれない」
「そうだな。それがいいだろう」

となったのだが、

「……何だか人、少なくないですか?」

シェリアが首を傾げた通り、人通りが妙に少ないのだ。
通り掛かった男性に訊けば、相手は街の中心にある一際高い建物を指差すと、街の大多数が集まって抗議をしてると教えてくれる。
とりあえず聞いた所に行ってみようと、足を運んだアスベル達が見たのは、老若男女問わず集まった大勢の人々が、口々にロックガガンを殺すなと抗議する姿だった。
もちろん人々の抗議の声に対応するストラタ兵もいるのだが、疲れ切った様子で頭を抱えている。
真面目に見えるだけに哀れだ。

「ロックガガン大人気だね。これじゃ下手に手出しは出来ないね」
「元々は気性も大人しくて、人間に迷惑をかける事もなかったようだが…」

これまで、言ってしまえば『たかが魔物一匹』と思っていたアスベル達も、この騒ぎで人々がロックガガンにどれ程の愛着を持っているのかを目の当たりにする事となった。
それと同時に、大人しい筈のロックガガンが噂の通りに暴れている事に、マリクが首を傾げて呟いた時。

殺到した人々を冷静に眺めるアスベル達に興味を持ったのか、妙に貫禄のある男性が近づいて来た。
その貫禄に驚いたのか、素早く隠れたアスベルの後ろから、ソフィが男性を窺い見る。

「ロックガガン保護の声は日増しに高まって来ている。しかし一方で、街道を通れなくて困っているから、ロックガガンを始末してくれって声もある。どちらも、民衆の本音だ……。いずれにせよ、この状況に具体的な対策をせず放置すれば、良くない結果しか生まれないな」

困った事だと肩をすくめるが、その男性の言い方は随分と客観的で冷静なようにフィエラには聞こえた。
少なくとも、偏った両方の意見の利害をよく理解しているのだろうと。

「困ったな…。急いでユ・リベルテに行かなくてはならないのに」
「首都方面へ急ぐのか?それは生憎だったな…。すぐにはこの状況は打開すまい」

同情するように言って、群集に背を向けて去った男性を見送って、皆でうーんと頭を悩ませた。
しかし、此処で考え込んでいた所で何が変わる訳でもなし。
とりあえず、行くだけ行ってみようと言う結論に至ったアスベル達は、ふと、漸く気づいた疑問を口にした。

「フィエラさん」
「何かしら?」
「どうしてまだ外套を被ってるんですか?」
「あら、みんなこそ、いつの間にか脱いでいたのね。気づかなかったわ」

ふふふ、と笑ったフィエラだが、かと言って今から脱ぐ様子はない。

「フィエラ、お日様嫌いなの?」
「あら。そんな事はないのよ、ソフィ」
「じゃあどうして?」
「そうねぇ…」

純粋なソフィの質問に、フィエラは苦笑混じりに答えた。

「強過ぎる日差しは、将来のシミと皺の原因になるから」
「え゙っ!!」

へ〜、そうなんだ〜、と感心して終わった妙齢の女性パスカルはさておき、普通に美容にも気を使う女の子であるシェリアが、ばふっと自らも外套を被ったのは言うまでもない。




執筆 20110620

sable izolle = セイブル・イゾレ

- 27 -
Prev | Next

Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -