恋のメガラバ





 K9999は南の海にひっそりと浮かぶ小さな無人島にやって来ていた。

 もちろん、一人で来たのではない。

 組織の夏の慰安旅行だとか称してK’と、K’をベースにしたアナザータイプとKUSANAGI、そしてイグニスとの計5人で……だ。アンヘルはK9999以外のメンツを知ると、そんな男むさいメンツにまじるのはイヤだと言ってさっさとバカンスに出掛けてしまった。それを言ったらK9999だって不安を抱かずにはいられない顔ぶれなのだが、行ってしまったものは仕方ない。だったらせめて、自分とはほとんど付き合いはないがK’の保護者的なマキシマを……とも思えば、マキシマはボディパーツのメンテナンスが近いとかで参加を見送ることになった。

 マキシマについては、当然のようにこの旅行の立案者であるイグニスの作為を感じるのだが、K9999の不安など鑑みられることはなく、今に至る。


 K9999はシーツの中で、何度目かの寝返りをうった。

 ……眠れない。

 それもこれもKUSANAGIのせいだ。

 昼間、広い応接室にある長いソファーに座って、ぼんやりとしていたK9999に近寄るなり、KUSANAGIは言った。

 この島はかつては罪人が流されていた島で、K9999たちが寝泊まりするこの洋館は監獄だったのだと。罪人の処刑法はそれはむごいもので、拷問の末に処刑されて成仏しきれない罪人の魂たちは今も島のあちこちや洋館の中をさまよっているらしい。

 典型的な、子供騙しの怪談だったがK9999は子供だ。言われてみると、壁の染みが飛び散った血が乾いてできたもののように見えてしまう。

 KUSANAGIの前では、さも信じてはいないと強がりはしたが、いざ夜になると何とも不気味に感じて仕方なかった。しかも、追い打ちをかけるように外はものすごい強風が吹きすさんでいる。

 目の前にいないKUSANAGIに恨みごとを吐いていると、部屋のドアがノックされた気がした。ただの風か、あるいはさまよえる魂が迎えに……。K9999はぶるりと身を震わせ、頭からシーツを被った。

 だが、ノックの音は激しさを増して行く。あきらかに人間の意思が存在する感じだ。そこに、夜中であることを気にも止めない声が聞こえて来る。

「起きやがれ、デコ助ェ!」

 この声と喋り方はKUSANAGIだろう。言われなくても起きていると、ドアを叩き壊されかねない勢いに負けてK9999はノロノロとベッドを降りた。

 ドアを開き、言葉を失う。仁王立ちしたKUSANAGIはトレードマークのバンダナを額に巻き……フンドシ姿だった。褐色の肌と、明かりの落とされた廊下にバンダナとフンドシの白さが眩しい。

「……」

 あわてて閉めようとしたドアに、何故か木製の手桶が差し込まれる。手桶の上では大きな伊勢エビがぴちぴちと跳ねていた。伊勢でもないこの辺りで伊勢エビは取れるものなのか、エビと言ったらせいぜいがブラックタイガーのエビフライでしか実際に見たことがないK9999を、2つの意味で驚かせる。

「ひ……っ」

 K9999は思わず悲鳴を上げ、後ずさった。それを部屋に招き入れる仕草だと勘違いしたのか、KUSANAGIはずかずかと入って来る。

「てめえも海の男の血が騒いで仕方ねえだろ!? あぁ!?」

 いつの間にKUSANAGIに海の男の血が流れ出したのだろうか。状況について行けずに目を白黒させるしかないK9999にはまるで構わず、KUSANAGIはK9999の服をひん剥かんとして手をかけた。赤い眼がいつになくギラギラと輝いている。

「バッ、バカッ! やめ……っ!」

「シャラーッ!」

 聞き覚えのある謎のかけ声がして、K’がドアを就り開けた。この際、助けになりそうなら誰でもいい。そんなK9999の淡くほのかな期待は、K’の姿を見るなり粉々に砕かれる。

 KUSANAGIのフンドシに対抗でもしているように、K’が身につけているのは黒いビキニパンツ1枚だった。そこまでは何とか、K9999も妥協してもいい。だが、何の理由があって……あきらかにワンサイズ小さいものを選んだりするのだ。

「フンドシなんてダセェモンを、こいつにさせようとすんじゃねえよ。オトコならビキニパンツだろうが」

「あァ!? ナニをシメつければいいと思ってんじゃねえぞ、サル!」

 KUSANAGIとK’は、K9999には訳の分からない口論をはじめた。とりあえず、K9999から視線が外れている今のうちに逃げよう。足音を立てないようドアに向かったK9999の前に、アナザーK’が立ちふさがった。

「おっと。ドコに行く気だ、ハニー?」

 深みがかった紫のレザーをまとったアナザーK’に、K9999は少しはマシな奴が来たと安堵したのも束の間。

 K’と同じデザインのレザージャケットにチャップス……。どうして、レザーパンツをはいてはいないのだ。チャップス以前に、そっちをはくべきではないのか。

「俺の部屋に行くつもりだったのか?」

「う……。うわああぁん!」

 とうとう泣き出したK9999は顔を寄せて来るアナザーK’を力の限り突き飛ばし、脱兎のごとく薄暗い廊下を走った。角を曲がろうとしたところで人にぶつかり、しりもちをついてしまう。メンツからして、ぶつかったのはイグニスだろう。

 てめえのせいで大変な目に遭った、と気丈にも文句を言おうとして顔を上げ、K9999は絶句した。

 正面でK9999と同じようにしりもちをついたイグニスは、少女じみたフリルとレースとリボンで飾られたワンピースを着ている。K9999に気がつくとレースのハンカチを取り出し、その端を軽くかみながらくねくねとしなを作った。

「もう、ナインちゃんったら……走って来るなんて、情・熱・的、なんだからぁ」

 K9999の背筋を冷たいものが流れ落ちた。イグニスの手がのびて来たかと思うと、指先が頬をつうっとなぞる。

「あら? どうしたの、怯えちゃって……。んふふ、カワイイ子」

「……ッ!」

 K9999の意識が限界を訴えて遠のいて行く。フェイドアウトする直前、背後から足音が3つ聞こえて来たことは……。


 気がつかないフリをした方が幸せ、なのだろうか。

END



昔書いたものの焼き直し。各キャラの服装の元ネタは「かまいたちの夜2」のサブシナリオの1つ、官能篇です。

そろそろ夏も近い、の、で……っ!


20100511 UP






 

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