〜 序幕 〜
「ノクティス王子…、これ、よかったら食べてください…!」
「おう、サンキューな。…ところでお前、かわいいな。この菓子と一緒に食っちまいてーくらい」
「えっ…ノ、ノクティス王子になら…喜んで…」
「んじゃ今夜、俺の家来いよ…」
「キャ〜!!ノクティス王子〜!!」
等身大三面鏡の前で一人芝居を終えてベッドに転がると、身近にあったクッションを抱きしめながらフィアナは発狂した。
このルシス王国を統一するレギス陛下の御子息にあたるノクティス王子と同い年で生まれたこと、同じ学校に通えることだけで神を崇めるほど喜んでいたフィアナがうるさいのは、今に始まったことじゃない。が、今日は一段とうるさかった。
「はあ…夢でも見てるみたい…。ノクティス王子と同じクラスだなんて…。ノクティス王子と同じ…クラス…」
言葉にしただけで現実味が溢れて自分の頬が緩まっていくことに気が付き、起き上がって両手でその頬を思いっきり叩いてみる。一瞬の痛みとヒリヒリした感覚にフィアナの頬は更に緩んだ。
無意識に出てくる締まりのない笑い声に似た自分の気持ち悪い声に自分で若干引きながら、机に置いた小さな紙袋に視線をやる。
巷で人気の焼き菓子を、お近付きの印として渡そうと考えたのだ。王子様だしお家で美味しいものでも食べてるのかと思いきや、意外と庶民派だという情報も仕入れてそれならばと今日の入学式が終わってからすぐさま買いに行ったものだ。
「イメージトレーニングは完璧!あとは渡す勇気だけ!!」
胸の前で小さくガッツポーズをして気合いを入れると、部屋の明かりを消して早々に眠りについた。
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