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「おいそこの一年、お前今俺にガン飛ばしたろ」

昼休みに購買に向かう途中、すれ違いざまに呼び止められた久瀬くぜはうんざりしながら足を止めた。校則違反な金髪にでかいピアスの穴を開けた大柄な男とその連れがすかさず久瀬に詰め寄り威嚇する。

「なんだ? その目はよ。俺に何か文句でもあんのか? あァ?」
「はぁ? 誰もお前のことなんか見てねーよ。つーか誰だよアンタ」

久瀬の鋭く吊り上がった切れ長の一重が他人にいい印象を与えたことはない。その目付きの悪さのせいで名前も知らないただすれ違っただけの相手に絡まれることもしょっちゅうで、おかげでずいぶんと喧嘩の腕が鍛えられた。

「てめえ、先輩に向かってなんだその口の利き方は? ずいぶん生意気な一年だな」
「あー俺こいつ知ってるぜ。久瀬だろ。噂の」
「久瀬? ……なるほど、こいつが久瀬か」

含んだ言い方をして男はニヤニヤと表情を緩める。

「お前、こないだ俺の大事なツレをボコボコにしてくれたそうじゃねえか。なぁ?」
「誰だか知らねーけど、そっちが難癖つけてきただけだろ。面倒くせーな」

心当たりならいくつもありすぎて男の言うツレとやらがどこのどいつかもわからなかったが、久瀬に喧嘩を売る連中の十中八九がどうでもいい言いがかりばかりだ。久瀬にとってはいちいち手を煩わせる邪魔な存在でしかない。

「もういいだろ、どけよ」

押しのけて立ち去ろうとする久瀬の肩を男が後ろから掴んで引き寄せ、口元に不敵な笑みを浮かべて囁いた。

「待て待て。ちょっと俺たちに付き合えよ、久瀬。俺の仲間が何人もお前に借りがあるらしいんでな。いつか礼をしてやろうと思ってたんだよ」
「はぁ?」
「まぁいーからついて来いって」

男とその連れが久瀬を取り囲むように両脇から肩を組み、強引に歩き出す。周囲の生徒が救いの手を差し伸べるはずもなく、ヒソヒソと話しながら廊下を譲る。

「うわ……また絡まれてんのかよ、久瀬のやつ。今度は何したんだ?」
「さぁ? つーかちょっとヤバイんじゃね? あれって三年の…」
「バカ! 関わらねーほうがいいって」

どこからともなく飛んでくる野次にも久瀬は大して気にも留めなかった。
問題を起こしたくて起こしているわけではないが、相手のほうから絡んでくるのだから不可抗力だ。喧嘩で負ける気はしない。いつものように軽くあしらって、到底かなわない相手だと教えてやればいい。そう思っていた。―――その時までは。

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