宮中の姫君達の常に噂の的の人。


艶やかな黒色の髪に、闇夜より深い瞳。
手入れを欠かさない彼女達でも羨ましいと思う、白い肌と流れるような目線。
淡い桜色の口元から紡がれるのは、数少ないけれど、誰をも惑わす危険で甘美な言の葉。


墨色の狩衣を好んで着る、少し変わった合わせ。


今日もまた。
遠くにあるその姿を、少しだけ拝見する姫君達の会話は、


「見て、雲雀の君よ」


「近頃、紫の上によくお会いになるそうね」


「羨ましいわ。私も一夜の契りでも構わないからお声をかけていただきたい」


実に蠱惑的な内容だった。


そして、当の本人は聞こえているのかいないのか。
お付きの者でも気付くか気付かないか分からないほど微かに、一瞥していた。















「全く。どうして女子は“あぁ”なんだい?」


「……っ」


雲雀の君の屋敷の中。
日の光を軽く遮るように簾をかけた一室。


まだ夜の帳も落ちていないにも関わらず、甘い香が立ち込め、既に人払いをされたそこは刻限に合わない空気をかもち出していた。





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