するりと背後から伸ばされた腕に捕まり、葉月は先程まで学んでいた筆を机へと戻し。
耳元に直接かかる吐息に身体を震わせる。
「その点、君は良い子だね、葉月」
紫の上、また若紫という通称で呼ばれる彼女は、葉月。
宮中から外れた屋敷の庭で黄色い鳥と戯れていた所を、丁度通り掛かった雲雀の君に見初められ、半強制的に彼の屋敷に連れられてきたのである。
それから雲雀の君に勧められ、習字に琴に礼儀作法に。
一流の姫君への習いを叩き込まれた葉月は。
今や何処に出ても申し分ない姫君へと成長していた。
胸元の合わせから雲雀の君の手が差し込まれる。
冷たいその手にぴくりと反応すれば、彼は躊躇いなく葉月をその場に押し倒した。
墨色の狩衣が葉月を覆いつくし、逃げ場のない鳥籠を想像させる。
「さぁ、可愛らしく啼いてみせて」
そう紡いで微笑んだ雲雀の君は、歳に似合わず妖艶だった──
「……ぇ、起きて」
「……ん、」
「何時まで寝てるつもり?」
ふわりと漂うシャンプーより爽やかな、けれど少し違う何故か惹かれる匂いが鼻先を掠めた。