血の、錆び付いた鉄のような臭いがむせ返るくらいに充満している。
夜のせいもあり、視界が異常に暗いことは幸いであった。


──気持ちが悪い。


そう思わせるには条件が整い過ぎていて。


葉月は、その自らの感情に落胆した。
奪い屋になってからもう数年が経つというのに、今更新人の時のような感情を持つとは思わなかった。
一体今までどれだけの生き物を屍に変え、どれだけの血を見たというのか。


しかし、そんな真面目な彼女だからか、先程からいやに何かが気になり、神経がピリピリしている。
結果、血臭を必要以上に感じてしまい、懐かしい感情を持つ羽目になっているのだが。


だが、それが一体何なのか。
全く理解出来ない。


本来は真っ白であるであろう病院の壁は夜の闇で真っ黒に見える。
それも幸いであった。
月明かりで見えるそれは、惨劇から時間が経ち、恐怖を煽る赤黒い色に変化していたのだから。


それは病院本来の清潔感から、明らかに遠ざかった何処かのお化け屋敷さながら。
いや“現実に惨劇が行われた”のだから、お化け屋敷とは比べ物にならない恐怖感を与えている。



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