──早く目的の物を探してしまおう。
正直一分一秒でも早くこの現場から離れたかった。
ピリピリの原因が何であれ、仕事さえ終わってしまえば後は関係ない。
例え依頼物がまた狙われようが、奪われようが、呪われていようが。
「それは非常に残念ですね」
一瞬、身体に電流が走ったような気がした。
「……誰?」
恐る恐る声のする後ろを振り向く。
そこにいたのは黒衣に身を包んだ長身の男。
脱帽し、スラリとした身体をしなやかに曲げると、紳士がそうするような実に丁寧な返事が返ってきた。
「はじめまして、赤屍蔵人と申します」
その、聞いた事のある名前にゾクリと悪寒がした。
裏社会で生きるのに、彼の名を──Dr.ジャッカルを知らない人などがいるはずがない。
悪寒と同時に冷汗が身体を流れ落ちる。
痛いほど、心拍数が跳ね上がり、気を抜けば震える足から崩れ落ちてしまいそうだ。
逃げろという警戒の赤信号が頭の中で鳴り響く。
しかし、それと同時に一歩でも引けば確実に殺られると本能が訴えた。
矛盾した考えが頭の中を駆け巡る。