「一度だけ、君のために溝の鏡を貸してあげよう」
私の落ち込みようを見兼ねたのか、ダンブルドア校長先生はそう、お茶目にウインクしてみせた。
溝の鏡といえば、ハリーが一年生の時に騒いでいた鏡。
なんでも彼の“両親が写る”らしく、ロンと騒いでいたことが記憶に新しい。
ロンに聞けば、鏡は彼が監督生でクィディッチのエースも兼ね、グリフィンドールを優勝へと導いたシーンを写したそうだが。
何が本当なのやら。
「今日の夜、例の部屋に置いておこう。いいかね、誰にも見付からないよう、気をつけるように」
半月眼鏡の下からは、少しの意地悪とかなりの本気を宿した瞳が私を射ぬく。
ごくりと唾を飲み込み、数回頷いた。
それしか、その時の私には出来なかったから。
だから、こうして確かに校長先生の言い付けを守り、一人で透明マントなんて被って、魔女なのに忍者の真似事みたいなことをして。
必死にたどり着いて鏡を見た結果がコレなんて、あんまりすぎたのだ。
鏡の中の私は、ただ、微笑んで私を見ているだけ。
校長先生の話では、見た者の心の一番奥にある望みを写す、特別な鏡のはずなのだが。