目の前を黒猫が通り過ぎた。
「縁起悪い」
「ふん。日本にもそんな考え方があるのか」
ポツリと独り言を呟いた葉月に、何がそんなに不満なのかスネイプの眉間に皺を寄せた表情が更に硬くなった。
ただ単に黒猫が目の前を通り過ぎただけのことだが、彼にとっては重大な発言だったらしい。
やはり外国に就職したことは失敗だったかもしれないと葉月は悲観的になり、溜め息を零す。
日本を渦巻く就職難の波に敗れた彼女に、正に“天からの助け”のごとく、良い就職口があると校長先生が進めた先は、遥か遠くの島国、イギリスはホグワーツ魔法魔術学校の事務員であった。
面接官でもあった、ダンブルドア校長やマクゴナガル教授は葉月にとても優しく色々と教え、知らぬ土地でも何とかやっていけるかもしれないと思わせる幸運の兆しだった。
それは例え英語が苦手なために上手くコミュニケーションが取れなくとも、オーバーリアクションに付いていけなくとも、文化の違いに苦しい思いをしても、子供達から異端扱いされようとも……である。