酷い雨だ。
崑崙山で雨が降るなど、滅多にあることではない。
──天女がお嘆きになったか?
何時もは青く澄んだ空が広がる空(くう)を見上げ、玉鼎はまた先を急ぐように足早にその場を立ち去った。
「楊ゼン!」
バシャバシャと水溜まりの上を駆ける。
お陰でズボンの裾や羽織りの先は大量の水を吸い、ぐちゃぐちゃになっていた。
しかし、玉鼎はそんなこともお構いなしに走り続ける。
──何処に行った?
大切な、息子のように大切な弟子が夕方から帰らないのだ。
楊ゼンの行動範囲はさほど広くないはずなのに、何処を探しても髪の毛一本見付からない。
降る雨は容赦なく玉鼎の体力を奪っていく。
──一度洞府へ戻るか。
ぐしゃりと濡れた長髪をかき上げると、もう帰路に着いているかもしれないという淡い期待を抱いて、また、走るように元来た道を辿った。
涙が止まらない。
どうして僕は此処に居るのだろう?
僕は妖怪なのに。
僕は異質なのに。
僕なんていない方が良いに決まっている。
師匠も葉月さんも、僕がいなければ二人で仲良く暮らせる。
僕は邪魔者でしかない。