最近のお姫様は機嫌が良くないらしい。
普段はそこらの男より、幾分も逞しく明るくて格好良いのだが。
今の彼女は、まるで何処かの令嬢の様に、大人しく真面目にダンスのレッスンを受けている。
ふわりと綺麗に靡くフレアスカート。
光を浴びて輝く漆黒の髪。
曲に合わせて踏まれるステップの軽い音。
破天荒な行動とは程遠い、ハヅキ。
「何か?ウェラー卿」
「いいえ、何でもありません」
俺の視線に気付いた表情は、眉間に皺を寄せていてお世辞にも誉れた対応ではない。
恐らく原因はヨザックだろう。
先日から仕事で血盟城を離れている旧友。
魔族に愛される双黒の姫君の愛を、一身に受けている混血の諜報員。
「何?」
座っていた椅子から腰を上げ、ニコリと得意な笑顔を向けるとハヅキは更に不機嫌になった。
それを見て見ぬふりをして、ダンスのパートナーとしてお姫様の前に立つ。
軽く手を差し出せば、大人しく俺の右手にその細い左手を置いた。
曲に合わせて一歩を踏み出せば、練習なんてする必要がない華麗なステップで着いてきた。