第2章・2−7 

 私と陽太郎が無言で牽制しあっていると、不意に、青地くんが「あ、そうだ」と声を上げた。
 同時に、私の意識は青地くんに引き戻される。
 そうだ、私は青地くんと話していたのだった。陽太郎なんてどうでもいい。
 私は陽太郎からすばやく顔を背け、そそくさと青地くんに向き直った。青地くんの机に両手をつき、腰を軽くかがめ。近い距離から相手の表情をうかがう。
「どうしたの? 城戸についてなにか思いついたの?」
 私がやや弾んだ声で問いかけると、青地くんは「いいこと教えてあげる」と目を細めてほほえんだ。穏やかだけれどどこか寂しそうに見えるのは、はたして気のせいだろうか。

「城戸、喫茶店でバイトしてるんだよ」
「喫茶店? 城戸が?」
 私は青地くんの発言に、すかさず食いついた。
 青地くんは「そう、あの城戸が接客」とコクリとうなずいた。
「たまたま入った喫茶店に、城戸がいてめちゃくちゃびっくりした。笹さん、冷やかしに行ってみなよ」
 むりやり作ったような笑みだけれど、青地くんはいつもと変わらない穏やかな調子で、青地くんは私の背を押した。
 私は「う、うん……」と、若干うろたえながら首を縦に振った。
 なんで、青地くんは苦しそうな色をにじませながら、私が城戸に接近する手段を示してくれようとしているのだろう。

 青地くんの申し出はとてもありがたい。今すぐにでも城戸のバイト先を聞き出したい気持ちでいっぱいだ。
「全力で城戸のバイトの邪魔しにいきたい、けど……」
 なのに、私は青地くんに賛同しながらも言いよどんでしまった。青地くんの腹の内がよくわからなくて、つい慎重になってしまったのだ。
 もし、万が一、本当に青地くんが私に好意を抱いているのだとしたら。「悪いけど、城戸について全然知らない」とすっとぼけておいたほうが、青地くんにとって都合がいいような気がするのだけれど。
 青地くんはけっしてお馬鹿ではないはず。けれど、正直に城戸の情報を私に与えてしまうだなんて、少々誠実すぎるのではないだろうか。
 そもそも、青地くんが私に惚れているように感じるのは、私の勘違いなのかもしれない。

 首をひねる私をよそに、青地くんは机に置いてあったケータイを手に取った。ケータイ画面をスライドさせてテンキーを引っぱり出しながら、くもりのない瞳で私をまっすぐに見上げる。
「城戸のバイト先の位置情報とか送るからさ、笹さんの連絡先教えて?」
 先ほどの憂い顔がウソのような、浮き立った明るい笑顔だった。
 私ははっとして、青地くんの顔を二度見してしまった。
 ……城戸の情報をエサに、私のメールアドレスを聞き出すのが、青地くんの目的だったのか。
「う、うん……」
 私はたじろぎながら、ケータイの赤外線通信画面を開く。
 どうやら、青地くんは私が思っている以上にしたたかな人物のようだった。

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