第1章・2−6 

「城戸」
 さっさと歩き出した城戸に、私は声をかけた。
 毎度のごとく、城戸は立ち止まらなかった。
 私にも、城戸を引きとめようとする意思はなかった。ただ、返事はいらないけれども、城戸に伝えておきたい言葉があった。

 私は息を大きく吸い込む。
「私、絶対にキミを屈服させてみせるから」
 笑みを浮かべながら、自信満々な態度で城戸に宣言した。やけに朗々とした私の声は、確実に城戸の耳に届いたと思う。
 勢いに任せただけの、恋心を伴わない告白とはいえ、城戸に無下にあしらわれるのは気に喰わない。
 城戸を私に惚れさせることで、城戸を屈服してやりたかった。「僕も好きだ」という悔しそうな言葉を、城戸から引き出してやりたくてしょうがなかった。

 意外にも、城戸は私の宣戦布告を受けて立ち止まった。
 首だけで振り返った城戸は私を一瞥し、嫌悪の色を浮かべる。
「もう僕に関わるな」
 固く引き結んでいた口を開いて、城戸はきつい語調で私に命じてきた。偽りのない私の想いを、ばっさりと切り捨てる短い言葉。おそらく、城戸の本音だろう。

 私は口元にいびつな笑みを浮かべた。
 城戸に嫌な顔をされたくらいで、私は屈しない。だって、城戸を苛立たせるために、わざわざぶっ飛んだ発言を相手に投げかけているのだから。
 正面に向き直った城戸の背中を見つめながら、私は作為的に肩をすくめる。
 告白したせいで勢いづいているのか、ムダに演技がかった動作をしてしまった。すでに、城戸は私を見ていないのに。

「やだよ」
 頬に不敵な笑みが浮かぶのを感じながら、私は城戸に向かって断言した。
「何度だって、城戸に関わってあげる。城戸に嫌がられたって、私は一歩も退く気はないから」
 私は挑発するように、上から目線な言葉を重ねてみた。
 不遜な響きのある自分の声に、満足感が込みあがってきた。なんてわくわくする戦争宣言なのだろう。
 今後どうやって城戸に嫌な顔をさせようか考えるだけで、身が震えるほど楽しい気持ちになってくる。

 城戸は浮き足立つ私を完全に無視して、去っていった。もはや、私の相手をする気さえないらしい。
 今度は、私も城戸を追いかけようとはしなかった。
 私は執念深い……いや、粘り強い性格だ。けれど、あまり相手に対してしつこくしすぎると、誠に不本意なことに、今度は私が「ストーカー」という名の変態にされてしまう。

「逃げられちゃったなぁ……」
 去りゆく城戸の背中を見つめながら、私は口惜しげにひとりごちた。鏡がないからわからないけれど、たぶん、今の私は苦笑している。
 長い長いため息ををつきながら、私は肩を回した。
 何度も肩をすくめたせいなのだろうか、少々肩がこっていた。標的である城戸とふたりきりで対峙したせいで、知らず知らずのうちに緊張していた可能性も考えられる。
「……まあいいか」
 今日のところは、城戸を深追いしいなくてもいいだろう。
 私も城戸も、同じ学校の生徒だ。いつ、何度でも城戸に会えるのだから、後日また城戸に絡みに行けばいいのだ。

 次は城戸のクラス、2−Fの教室に攻め込もう。城戸が休み時間をどんなふうに過ごしているのか、調べることもできるし。
 相手を屈服させたいのなら、まずは相手を知る必要がある。相手について知りたいのだったら、城戸の交友関係も把握をしなければ……。
 私は城戸を屈服させるための計画を練りながら、ゆっくりと校舎裏を後にした。

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