02


これが、梶野と俺の出会いだった。


それからはやけに懐いた梶野を交えて仲間と遊び倒した。最初に感じた通り、梶野はかわいい後輩だった。原田が言っていた、そういう面白さじゃない、という言葉の意味を実感することはなかった。ある日、ふと気になって一度だけ、聞いてみたことがある。

「原田が言ってたさ、梶野の面白そうって、どういうことだったの?」
「あー、あれね。いやなんかさ、あいつ冷めてるっていうか、周りとめちゃくちゃ距離置いてる感じしたから。でもそんなことなかったみたいだし、俺の勘違いっしょ」

原田は人を見る目がある。だけど間違うこともあるんだろう。実際梶野に冷たさなど全く感じない。むしろ俺を含めた先輩や同級生とも仲良くしていると思う。原田もあいつはいい奴だと本人がいないところでよく言っているので気に入っているのは確かだ。

俺は高校生活の中で、卒業までの一年間が一番楽しかったと思える日々を過ごした。
そして、Fランだけど大学にも無事進学が決まり、卒業を迎えた。

卒業式には後輩たちのむせび泣く声が聞こえて、かなり引いたが慕われていた証なので嬉しくもあった。
一年間で身長が10cm伸びたと喜んでいた梶野は涙こそ流さないが、目を赤くしてこちらを見ていた。今では俺より少し背が低いくらいの身長だ。まだ伸びていると言っていたので少し羨ましい。泣きたくないのか、眉間にしわを寄せるその顔を見ておもわず笑ってしまうと、ムスッとした顔に変わる。しかし、手招きすると素直に従ってこちらにやってきた。小型犬が、大型犬になった感じだ。

「お前は泣かないの」
「泣きませんよ!・・・でも淋しいとは思います」
「おー、そっかそっか。大学行ってもたまに連絡するから」
「・・・なんかめちゃくちゃ嬉しそうっすね」
「そりゃ、後輩にここまで泣いて淋しがられたら嬉しいよ」
「っ!・・・泣いてねぇよ!」

最後だからと言わんばかりに敬語をとった言葉を吐かれたが、梶野は特に可愛がっていたので気にならなかった。まあ、元々俺はそういうことを気にしないタイプだったけど。でも、馴れ馴れしく話しかけられるのはあまり好きではないから、やっぱり梶野だからっていう部分もあるだろう。

これで最後だ、と腕を伸ばす。俺よりもほんの少し低い位置にある頭を撫でると梶野の潤んだ目から涙がこぼれた。

まさかこれで泣くとは思わなかった。思わずギョッとして手を引こうとしたが、なぜか手首を掴まれてしまい宙に浮いたままになってしまった。流石に、いつまでも子供扱いみたいで嫌だったんだろうか。じっと見られると流石に恥ずかしくなってくるが、真剣な目をする梶野から目が離せない。何か言いたいことがあるような目だ。
何も言わない梶野を待ちながら顔を眺める。入学してきたときもイケメンだったけど、背が伸びてさらに磨きがかかったように思う。ガタイも良くなったし。俺は筋肉がつきにくいんだと愚痴をこぼしてみたけど、笑ってスルーされたのが懐かしい。他校の女子から告白されたというのを茶化して少し不機嫌にさせ、それを笑ってしまって怒らせたなんてこともあった。
思い出に浸って待っていると、ようやく、梶野は腕を離してこちらを見ていた目を伏せる。そして、梶野の口が開きかけた、ところで後ろから大きな声が聞こえた。

「あー!しんちゃん泣かせた!」

振り返ると原田が指をさして騒いでいる。恥ずかしいのか、すぐに涙を拭った梶野が「うるせーっすよ!」と言いながら原田の方へ向かっていく。何か言いかけていたように感じたけど、まぁこれからいくらでも話す機会はある。苦笑いしながら後を追いかけて、最後の放課後を楽しんだ。


しばらくして、打ち上げがある俺と原田は学校を出なくてはならない時間になった。クラスの打ち上げに軽く顔を出した後に、OBが集まってくれるらしい集会に行くことになっている。

「じゃあ、またね。梶野」
「っ、はい。また、連絡します。してください」
「はいよー」

別に今生の別れでもないのに、なんでこんなに後輩たちは泣くんだろうか。原田の元へ向かいながら苦笑いをこぼす。

「あーあ、これでしんちゃんとの学校生活も終わりかー」
「原田は専門行くんだっけ?」
「そ、ゆくゆくは親父の仕事の手伝いしてえから」

いつもはふざけている原田だが、根は真面目ないい奴だ。それに、ここまで性格が違うのに、原田と意気投合できたのは、俺たちが片親に育てられたというのもあるのかもしれない。お互いそれなりの苦労をしてきたから分かり合える部分があった。

「俺はこれからもバイト漬けの生活になりそうだな」
「あ?なんで?しんちゃん学費は溜まってんでしょ?それにしんママが出すって行ってなかったっけ?」

俺の家によく泊まりに来ていた原田は、最初大学にはいかないと言っていた俺の相談をよく母さんから受けていたらしい。恥ずかしい話だ。

「あー、金はもう溜まってる。母さんに出してもらわなくても大丈夫なくらいには」
「じゃあ、バイトする必要なくね?」
「・・・少しは楽させてあげたいじゃん」
「キャー!!もう、しんちゃんそういうとこ!イケメン!顔はただの美人だけど!!」
「あー、うるさ。言うんじゃなかった」
「それさ、しんママが聞いたら泣くと思うよ。嬉しくて、でも、しんちゃんには学生生活楽しんで欲しくて」

突然真剣な声色でそう言った原田を見ると少し泣きそうな顔をしていた。俺はいい友達を持ったな。こんなに理解してくれて心配してくれる奴はそう簡単に出会えない。俺の気持ちも、理解してくれているからこその言葉に笑みがこぼれる。

「心配しないでって。今までみたいに無茶するつもりはないから。お前とも遊びたいし」
「言ったな!!バイトのシフト逐一教えろよ!!」
「えー・・・それはだるい」
「なんでだよ!」

校門を出て原田といつもと変わらず騒ぎながら打ち上げ会場に向かった。



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