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首に激痛が走って目が覚めた。目を開けると自分の家とは比べ物にならないほど白くて綺麗な天井が目に入る。それに、あのカラフルなステンドグラスの光がない。首に手を当てながら体を起こすと昨日の夜のことを思い出す。そうか、ここは梶野の家か。
今は何時だろうかと辺りを見回すとキッチンのカウンターの上に時計があった。まだ朝の6時前だ。仕事に行く日と同じような時間に目が覚めてしまったが、眠気は全くない。とりあえずトイレを借りて、昨日飲みかけで置いたコーヒーに口を付けた。

少しぼーっとしていたが、ローテーブルにあったタバコとジッポが目に入る。タバコは借金返済の邪魔に、無駄遣いになるだろうとやめていたが久しぶりに吸ってみるかと、手にとってテラスに向かう。昨日ちらっとみた限りだと、そこそこ広いので覗き込まなければいくら高所恐怖症でも大丈夫だろう。
窓を開けると少し生ぬるいが爽やかな風が吹いていた。
置いてあったサンダルを履いて窓を閉める。梶野も普段外で吸っているのか置き型の灰皿がある。拝借した一本を咥えてジッポで火をつける。俺が吸っていたものより少し重いが久しぶりのタバコは美味く感じた。全部話してスッキリしたからか、この朝日と風を浴びながらだからか。ゆっくりと堪能していると窓の向こうからガタン、と大きな物音がした。

俺がいる位置からは中が見えないため、顔を覗き込ませると梶野がリビングのドアを開けて出て行くところが見えた。トイレでも我慢しているのだろうか。不思議に思いながら見つめていると、すぐに玄関の方から戻ってきた梶野と目が合う。
おはようと、一本貰った、という意味を込めて手を軽くあげると、焦っていた梶野がホッとした表情を浮かべた。そして、タバコの箱を手に取り、こちらに来て窓を開ける。

「おはようございます」
「おはよ。なんで慌ててたの?」
「あー・・・いや、なんでもないです」
「そう」

まあ、なにかあったんだろう。特に気にするでもなく短くなったタバコを揉み消して、梶野にジッポを渡し、場所を交代する。

「梶野、早起きなんだな」
「そうですね、基本平日は5時とかに起きてジムで運動してから会社行くので」
「すげえな、ほんと、なんか、できる人って感じだな」
「んなことないですって」

梶野は窓を開けたまま吸い始めたので、床に座ってタバコを吸う姿を眺める。絵になるな、本当に。こんなに男前に成長するとは思わなかった。

「先輩、何食べたいですか?」
「ん?あー、朝飯か。なんでもいい。普段は仕事前にコンビニでおにぎり一個食べるくらいだし」
「休みの日は?料理しないんですか?」
「・・・料理の才能は皆無だったみたいで」

節約のためだと自炊に挑戦したこともあったが、炊飯器で米を炊けばなぜかおかゆの様になるか、カチカチの米の塊ができるかだったし、目玉焼きを焼けば上は全く生のままなのに裏が炭になったことから諦めた。

「あー、先輩、そういうの苦手そう」

ニヤッと笑って少しバカにした様に言うその姿もやはり様になっていた。

「じゃ、なんか作りますね」

部屋に入ってキッチンへ向かう梶野に尊敬の眼差しを向ける。今の時代、男でも料理ができないとダメだと仕事先で出会う女性たちに言われていたのだが、いくらやってもダメだった俺からすると、なんか作る、という言葉を出せるのがとてもかっこいい。

「何作るの?」

興味津々なのを隠さず、梶野の後ろから覗き込むと卵とベーコン、パン、トマト、レタス、そして何かの機械が用意されていた。

「なんだ、これ」
「これはあれですよ、ホットサンド作るやつです。簡単でいいですよ」
「ホット、サンド?なんだそれ」

あったかいサンドイッチってことか?と、首をひねるとまた少し笑われてしまった。梶野は、見ててください、と言って材料を切ったり炒めたりしていく。
卵はスクランブルエッグにして、ベーコンは細かくして炒め、トマトはスライス、レタスは洗って手でちぎっている。なぜかその全部がバラバラだ。

「なんで、別々?」
「ほら、サンドイッチの具材と一緒です」

今度は機械の電源を入れて、パンの両面にバターを塗ってその機械へ置いた。

「あとは好きな具材を入れて、最後にパンを乗せて閉めて待てば完成です」

そう言って手際よく、卵と冷蔵庫から取り出したチーズとケチャップ、もう一つ別にレタスにトマト、ベーコンを乗せたものを作って機械を閉じた。

「すげー。なるほど。これでぎゅっとして焼くのか」

結構分厚かったパンと具材が機械に押されて薄くなるのがなんとも面白い。ジッと機械を見つめていると、前に立っている梶野の肩が震えているのに気がついた。また笑われてるな、これは。恥ずかしくなるが、それよりもホットサンドというものが未知の食べ物すぎて見ることはやめられそうにない。

「ふっ、ははは、先輩って、ほんと、そういうとこ子供っぽいですよね」
「・・・だって、すげーじゃん。こんなにぺちゃんこに・・・あと、こんなのすぐに作れる梶野もすごい」
「んー、じゃあ今度もっとちゃんとした料理したら先輩ビックリしますね」
「え、これもちゃんとしてるよ」

俺は真剣に言っているのだが、梶野の笑いは止まらない。バカにされているのは分かるのだが、嫌な気分にならないのはなぜだろう。梶野に対して、そう感じないことが昔から多々ある。もしかしたら、梶野から俺に対してマイナスの感情を感じないからだろうか。

5分ほど待って、機械を開けるとこんがりと焼き色のついたパンからいい匂いがする。パンとパンがくっついて、挟んでいた具材が完全に中に閉じ込められていた。感動しすぎて出来上がったホットサンドを凝視しているとまた梶野に笑われたが、早く食べたくて梶野が用意していた皿を渡すとすぐに乗せてくれた。
ナイフで半分に切ると、中から具材が溢れて食欲をそそる。

「はい、どうぞ。先に食べてください。あったかいうちが美味しいので」
「ん、ありがと」

皿を受け取ってダイニングテーブルに座る。いただきます、と手を合わせてから湯気の出ているそれにかぶりつくと、あまりの美味しさに思わず無言になってしまった。

「美味しいですか?」

焼き上がり待ちの梶野がアイスコーヒーを置きながら聞いてきたので、首を縦に振った。そこからは、無心で食べて、出来上がった梶野の分も半分いるかと聞かれて思わず貰ってしまった。

先に食べ終わった梶野が、なぜかずっと俺を見ていて少し居心地が悪かったが、食べているうちに気にならなくなった。



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