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 年を重ね、老い、やがて死へと向かう。こんな当たり前のことが、私には与えられない。死をも恐れず、年を重ねることもない「不老不死」は、私の価値を高く見せるのには、最凶の武器。
 「どこに行った、あの化け物め!」
 「お前、左へ迂回しろ! 俺は右へ行く」
 「了解!」
 人身売買であれば最高ランクの評価を得る不老不死の私たちは、どうしてか、隣国からの不老不死を捕獲する人たちと、自国の軍から追われている。理由はいたってシンプルかつ簡単。
 『不老不死? 本当にいるのかどうかって? いるに決まっているわ。だって私、見たことがあるもの………なによ、嘘だって言いたいの? だったら捕まえてきてあなたたちに見せてあげるわ? 年を重ねることも死ぬこともない生き物がいるってこと、このアリスが証明してあげましょ?』
 この帝国ノワールの主、アリスが世界にばらまいてしまった発言。いくら「不老不死」の私たちでも、アリスは恐怖でしかない。
かわいらしい顔立ち。
西洋人形のような白い肌。
バストはまさかの九五に、アンダー六九にウエスト五六とパーフェクトスタイル。
加えて細い二の腕と、程々に色っぽい太ももを持つ。
空色の瞳を輝かせ、黄金色の髪をなびかせながら「私の為に死んでくれ」と、何のためらい無く発言するアリス。いくら語尾の後ろにハートマークをつけても、どれほどの美貌を持っていたとしても、あの怖さはまったくもって変わることはない。
 こんなアリスに捕まれば、彼女が指揮する軍に捕まれば、どうなるか? 悪いけれど、想像すらしたくはない。
きっとひどい目に会されるに決まっている。
だったら捕まらないようにすればいい。他に手段なんて、何一つとして残されていないのだから。
 「うまく、まいた?」
 浅くなる呼吸は、全速力で走った証拠。
逃げなければ捕まる。
捕まれば地獄を見る。
そんなのは嫌だ。
 ならば逃げればいい。逃げて、逃げ切ればいい。あの人たちに捕まることなく、アリスにも捕まることなく、ただ逃げ続ければいい。
 にぎやかな大通りから少し離れた裏路地に身をひそめ、もう大丈夫だろか、まだ早いだろうかと、細心の注意を払ないながらも、出来る限り息をひそめる。
いつもと変わらない市場。ゆっくりと動かしては、目を凝らし、思わず、ほっと胸をなでおろす。
 特別、私が何かを盗んだわけではない。何か大きな罪を犯したわけでもない。
 なのに、私が彼らから追われている最大の理由。
 「………………不老不死だなんて、冗談じゃないわ」
 望んで手に入れたわけでもないこの力は、たかだかの街娘の私には、あまりにも不釣合いでしかない。
 よく「死なないのだから、長生きできていいじゃない」なんていう人がいるけれど、正直殴りたいし、そんないいものでもない。壁にもたれかかり、太陽をにらむ。
 「命や時間は皆平等だというのであれば、私は何なの?」
 間違っても先帝は、こんなことを言わなかったのに。







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