prologue




 討伐隊が山小屋にたどり着いた時には、もうすべてが遅かった。
 不老不死者が住む、砂漠の楽園とも謳われた旧アルフライラ、現在のノワールから遠く東へ離れた所に、美しい湖と瑞々しい緑の森で囲まれた、小さな家がある。当然、砂漠では目にすることのない動物たちが、自然と共有していた。人の手を加えなくても、十分、美しさを保ち続けられる森、人はそこを「地獄」と呼び、人間が住むのには、不自由すぎた。いくら美しい自然が目の前に広がっているとは言え、山の中であれば、人が食べ物として口にできるのは、極わずかで、木の実ぐらいだった。「地獄」に住む動物たちは、殆んどが「レッドアニマルデーター」。つまり、絶滅危機の動物であること。こういった動物たちはどの国であろうとも、守るべきものとして考えられ、もしも食べ物として扱追うならば、当然のように厳しい罰が与えられていた。
 そして、もう一つ、人がこの森に住めない最大の理由。
 「しっかし、元アラジンも、なんで場所に」
 成人男性の胸元まで生茂る雑草に、討伐隊と呼ばれる彼らは、「こんな足場の悪い所に、どうして自分たちが特別な許可を得てまで、来なければならないのか」という怒りさえも通り越し、最早「一番初めに目的地に到着するのは誰か?」へと変化していた。
 「そらお前、ここは条約によって立ち入り禁止の区域だから、だろ?」
 胸を張って言う彼に、前へと進んでいた男二人は「それぐらい知ってるよ」と、声を重ねて言った。
 「そうじゃなくて、どうして逃げるのに、こんな数日歩けばたどり着くような所なんだ? アラジンだぞ? 不老不死者を匿う、なんてことしたら、地位の剥奪だけじゃないだろ? オズから首を飛ばされるだけじゃない、一族末裔までの大恥じゃねえか。だったらいっそのこと、普通は極東の国へ行くか、腹を切るか、だよな」
 ごく当たり前のように言う少年の年齢は、一八ほどだろうか? 独特の黒い瞳と髪に、程よく焼けた肌の色と身体に着いた体力が、多少足場が悪くても難なく彼を運ばせてくれている。渋い緑色のズボンに紺のティーシャツにスニーカースタイルは、彼の所属する討伐隊が、一体どれだけ自由なのか、を疑わせる。
 腰にはしっかりと装備された銃には、太陽の光で銀色のお守りが輝いていた。
 「不老不死者を狩る者が、不老不死者を生かし、さらには共に生き、匿う。なんだか普通の人間の俺らと不老不死者の和解みたいで、ちょっと嫌だよね。元アラジンとは言っても調子にのんなっての」
 ぽつり、と愚痴をこぼすかのように言った少年に、前を歩いていた程よく焼けた肌の色の少年が「おい、なんだあれ」と遠くの空を見ながら言った。前から二番目と最後のを歩いていた青年たちは遠くの空を見て、嫌な予感だけが、脳内をぐるぐると回った。

 不老不死者。ごく普通の人間によりも、生命エネルギーの再利用能力が、数倍以上も優れているから、私たちは不老不死者と呼ばれている。
 もしも一国の王であれば、多少の犠牲を払ってでも良い、下手をすれば大金を差し出してでもいい、と言うのかもしれない。とにかく不老不死の力を欲するだろう。
 だけど、私はごく普通の街娘不老不死なんて強力すぎる力、どこにも必要なかった。出来ればノワールの外に、こんな形では出たくなかった。大好きな人と恋をして、子どもを産んで、しわくちゃなおばあちゃんになりたかった。年も老いて、しわくちゃなおばあちゃんになって、陽の当たる下で「今日は何をしますか?」なんて言って、ぽっくりと死にたかった。
 「アルヴィ、わたし、貴方のこと――――」
 もう二度と呼吸をしない、私の腕の中で眠る彼を、ぎゅっと抱きしめる。
 「ごめんなさい」
 燃えていく炎の中、私は自分を責め続けた。きっとこんな火であれば、私は死なない。こんな、ごく一般的なオリーブオイルと火をつけた新聞紙だけでは、また私の身体が再生してしまう。
 「もう嫌だよ」
 ぼろぼろと涙を流しながら言う。
 「おい、そこのお嬢さんっ!」
 誰かの声がして、振り返ろうとした時だった、私の意識の糸は、ぷっつりと切れた。

 ようやく小屋に着いた時、嫌な予感が的中した。空高くまで上る灰色の煙に、案の定の結果だった。小屋が驚くべきスピードで燃えていく中、少年たちはやっとの思いで二人を救出、したはずだった。
 「アラジン、二人とも息してないよ?」
 アラジンと呼ばれた一八歳ほどの青年は、目を丸くしながら報告する彼の言葉が信じられず、ただ燃えていく木々の音しか、耳に響かなかった。








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