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 なんで私はここ数日のうちで二回も県警の方からのお叱りを受けなければならないのかを、ぜひとも教えていただきたい。
 「困るんですよね、こういったことがあると。我々は県警ですから直接的な被害はあまりないにしろ、我々の仕事が市民を守ることですからね。病院側がこういったことを起こしてもらうと、あんまり我々としてもいい顔は出来ないんですよ」
 よほど県警の方もお怒りだったようで、腕を組みながら言った。
 「申し訳ございませんでした、再発防止に徹底をいたしますので」
 どうしてチームリーダでもない私が、頭を下げなければならないのか?
 普通だったらここはオニナガと桜庭さんや、他のチームリーダの人たちだろう。なのに、なんで私とオニナガだけなんだ。
 「どっこも同じことを言いますよ、再発防止に徹底いたしますとか、今後はこういったことが無いように全力を尽くしますだとか。こんなことを言うところに限ってまた同じことを繰り返すんですけどね」
 ため息交じりに言った県警の方に、私は心当たりがあった。患者さんでも言う、再入院、再来外としてきた人たちは、決まって同じことを言う、注意していたんですよ、ちゃんとしていたんですよ、先生の言うことをしっかりと守っていたんですよ、と。
 けれど守っていたらそもそも病院に来たりなんかしない。再入院、なんてことにもならない。きっとこの県警の方が言いたいのは、こういうこと。要は「口だけであればなんとだって言える」なんだ。悔しいけれど、的を射ている。
 「申し訳ございませんでした」
 もう一度頭を下げる。肝心の桜庭さんは、なぜか連絡がつかない。他のチームリーダー全員も、なんでかは知らないけれど、連絡がつかないんだ。だから急ピッチとしてオニナガの目に留まってしまった私が代役として謝罪をすることとなった。
 「ごめんなさいね、源さん」
 両手を顔の前に合わせて言うオニナガ。
 「一体誰がこんなことをしたのかは知らないけれど、私はあなたがした、なんてことは絶対にありえないだろうし、だけど棚のカギを持ってる人間なんて限られてくるだろうし、あなたにまで謝罪をさせちゃって」
 深く頭を下げるオニナガ。申し訳なかった。
 「いえ、わたしは」
 ふと、思ったことがあった。
 「お願いがあります」
 もしも、と思えた。私の中で嫌なパズルが出来上がっていく。
 「今後、桜庭さんに渡すであろう連絡、念のために私にも予備として渡していただけませんでしょうか?」
 この病院の管轄を仕切るのは、医者とこのオニナガ。ならば、何か用件があればメガホンとなり知らせるのは医者とオニナガ。
 けれど、と今日のことで分かった。桜庭さんは、きっと堂上先生の言っていた『やもめ先生と看護師の源が付き合っている』の噂を知っている。
 だから桜庭さんは私に連絡を一切と言っていいほどよこしてこない。
 「桜庭さんと、源さんに連絡を?」
 「ええ、もちろん二度手間になることは承知のうえで言っています。けれど、私は今日の朝一に行われるであろう手術、桜庭さんからの連絡は一切ありませんでした。たまたま彼女が連絡ミスがあった、としてもそれからの会議の資料作成、本来であれば何かしらの連絡があったとしても何らおかしくないのにもかかわらず、いっさいなく、突然言われてしまった。だから」
 「桜庭さんと同じ連絡を、あなたにも送ってほしいと?」
 「はい、迷惑と二度手間は承知のうえで言ってます」
 わかっている、桜庭さんが何かをしようとしていることを。きっと私を困らせることをしようと、企んでいる。この手に関しては私が新人時代、嫌というほど受けて生きているから、わからないはずがない。「そうね」と言ったオニナガは、ナースステーションに行く途中の足を止めた。
 「今回のように連絡したのにつながらないということが、貴女であればありえないわ…………二度手間になるけれど、お試し期間ということでやってみましょうか」
 「ありがとうございます!」
 これで第一段階は突破できる。とりあえずこれで連絡ミスということはなくなる。
 「でもね、源ちゃん、変わりと言ってはなんだけど」
 「はい、なんでしょう」
 「私、携帯電話疎いのよ、メールってどうやるの? いままで桜庭さんたちには全文ひらがなで打っていたのだけれど、あなた、まだ若いでしょう? 携帯電話は扱えるわよね」
 ちらりとポケットの中から見せたのは、もう何年も前の機種。しかも角の塗装がぼろぼろとはがれていて、とてもではないけれど普通だったら買い替えるレベルのモノだった。
 「交換条件で、携帯電話の使い方、教えてもらえるとすごく助かるわ」
 源梓、ここ数十年生きていて一番の命の危うさを感じました。








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