壁の中で幸せを見つけたおとこ



 情事後、なまえの腹に散乱した白い欲を拭き取っていた。なまえはそれをなぜか申し訳なさそうに見つめている。

「すみません兵長、こんなことさせて・・・」
「俺は今初めて、好きな女を抱いた」
「え・・・、?」

 なまえは俺を大きな目で見つめた。言葉の意味がわからないとでも言うのか?俺がこんなにわかりやすく、ガキにもわかるようにストレートな言葉を選んだというのに。

「なまえ、お前のことが好きだと言っている」
「え、うそ、そんな、」

 なまえは頬を赤く染めながら体を起こし、俺の手を握った。何をする気だ、こいつは。

「わ、私も好きです・・・」

 自分から言ったというのに、この女。耳まで真っ赤にして、猫のように背中を丸めて俯いた。その小さなからだを抱き寄せると、なまえの甘い匂いが広がった。・・・これが、心地よいという感覚なのかもしれない。今までに感じたことのない感情を、なまえがすべて教えてくれた。幸せだなんて俺に似合わないが、この閉ざされた壁の中という小さな世界で俺は今、一番の幸せ者かもしれない。


20130715
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