町人Aの独り言

 世の中には3つの種族が存在する。…なーんてそんなことは、恐らく物心がついた頃には誰にも教わることなく何となく理解していたことだとおもう。だって私達とは明らかにちがうから。だって私達とは明らかに異質だから。
 1つは人間、私達だ。住んでいる地域によって言語は違うけど自分の意志で話し、動き、相手とコミュニケーションをはかることができる。そして次に分かりやすく認識できる別種族がモンスター。あれはもう見たら分かる。姿かたちがそもそも異なっている。言語を話すこともない。知能の高いモンスターの場合は人に近い姿形をしている場合もあるけど動作全てまで模倣する怪物は流石に居ない。戦闘能力のない私達は彼らを見たら逃げるべし。そうやって学んできた。そして最後の3つめ。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

 non player character――皆は略してNPCと呼ぶ、人間に近い、だけど人間ではない生き物だ。彼らは私達人間と近い場所に居る。例えば町の真ん中だったり、外れだったりそれはバラバラ。何を言っても何を話しかけても、人間がその目の前に通るたびに自動的に決められた言葉のみを紡ぐように決められた、機械のようなものだ。見た目は完全に人間だし、怪我をすれば血が出る。本当に、どこまでいっても人間なのに彼らは定められた言葉以外を紡ぐことは許されていない。定められた位置までしか動くことができない。不要な言動はできなくなっていて瞬きが申し訳程度に数秒に1度、ぱちくりと動くだけ。人間的な動きはせいぜいそれぐらいだ。全員が赤い瞳だから何となく初めて訪れる場所でも彼らは私達とは違うのだと理解るようになっていたけれど最初はそれがちょっと怖かったっけ。でも慣れれば夜中でも彼らは外にいるし、絶対に私のことを助けてはくれないけど襲いもしない、無害な生き物だという理解に落ち着けば全然平気。だって彼らに意志はないんだもの。
 そうやって私達はソレを受け入れている。変なの、なんて疑問は持っている方が変なのだという教育がそうさせたのかもしれない。とにかく私にとって彼らの存在はいつまでも不変だった。ああ、彼らが何故存在しているのかって? それは私も知っているから教えてあげる。全ては”冒険者”のためだ。私達町人とはまた違う、だけど私達と同じ人間という生き物のカテゴリーに分類される。彼らは私達のように生まれて死ぬまで同じ町に住むことはなく、突然旅をしたいと思ってしまうらしい。家族や恋人、友人を捨てて町や国を移動し、モンスターを狩って自由に生きる人達のことを冒険者と呼ぶ。私ならゾッとしちゃう。だっておとなしく生きていたら全てが決まっているんですもの。何も迷うことはないし何も考える必要はない。私達、”町人”は決められた役割さえこなしていれば穏やかな人生が約束されているのだから。
 その役割というのが”イベント”だ。私達町人だけしかできない、冒険者に与えなければならない試練。それは毎度同じだったり、たまに趣向を変えてみたり。誰が決めているのかは知らないけどそれにだって私達には私達のすべきイベントの為のシナリオがあって、すべき役割がある。…まあ今回は私も簡単ね。今回のイベントは冒険者がやって来て3日目で彼らの泊まる宿屋へ走り込み、助けてと叫ぶ役。そこから町長がやってきて今回のイベント内容を冒険者に伝えてくれるというものだから一番楽なんじゃないかしら。…え、何でそんなことをするんだって? そんなの知らないわ。だけど決められているからしなければならないの。町には町ごとにそうやってイベントを起こし、冒険者はそれをクリアしなければ次の町に行ってはならないというルールがある。それは例えば有権者の子供がさらわれた、みたいな事もあればただの捜し物で町中探索の時もあったかしら。いろんなイベントがあって、それが町ごとに違って。それはそれで楽しいかなと思うけど道中の移動とかモンスターとの戦闘とかデータも開示されていない見知らぬ他人と一緒に生活をしなければならないなんて考えるとやっぱり嫌なものは嫌ね。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

 …偉そうに説明しているけどそれってNPCと何が違うのですって? 全然違うじゃない。だって私達は生きているもの。生きて、自分の意志で話しているのよ。すべきことだけを決められている町人と全てが決められているNPCを一緒にしないでちょうだい。
 ただまあ…そうね、冒険者の為のイベントを町が起こして、冒険者がクリアして、クリアできた冒険者が次の町へ向かう。冒険者にとって町は通過点ですらなく、私達はいわゆる関門を通る資格があるかどうか見極める役割で、NPCはそれを支援する。そういう意味では私もNPCも同じく受け入れる側だから似ているのかもしれないわね。だけどやっぱり私達は彼らとは違うのよ。一緒にされるなんてたまったものじゃない!
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