NPC

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

 NPCは人間に近い機械だ。骸の生まれ育った場所ではそういった実験を多々行っていたことから彼らの原点、システムがどんなものであるかは大体把握している。
 全ては冒険者が現れてからのことだ。生まれ育った場所で死ぬという本来人間に定められた運命を拒絶する者、自分達を脅かすモンスターを倒したいと意志を持つ者、あるか分からない秘宝に期待する者…人によって目的は違ったが全ては町の外に”希望”を持った人間達が後を絶たなかった。昔からそういった人間は居たのだが当時は絶対数が少なかったということもあり何らかの突発的な病気であると思われていたものの数年すればそういった者達が倍増し、渋々人間たちは彼らを”冒険者”と称しその存在を認めることにしたのである。とは言え場所を転々とする冒険者達により町人が何らかの危害を加えられては溜まったものではない…そう考えた冒険者ではない人間達は彼らを管理することを決定した。それが”イベント”と”クエスト”だ。

 イベントとは冒険者が次の町へ行くための絶対条件。
 クエストとは冒険者が近場にあるダンジョンに潜るために必要な、町人から冒険者への依頼である。

 どちらも冒険者として過ごす為に必要なものであり、そしてそれこそが冒険者を把握する必要なデータとなる。イベントとは即ちこの町で厄介事を起こさないか否かの冒険者の見極めの為に、クエストとは彼らの冒険者としての、戦士としての力量を試す為にある。どのクエストをどれだけこなすことができたか、どのイベントをどの時間でクリアすることができたか…それら全てが町人が作り上げた冒険者ギルドによって数値化され、データとして全ての町で共有されている。それが表立っては自由だ何だと謳っている冒険者の実体だ。
 もちろん冒険者達はそういったことを知る者はいない。彼らは監視されていることに気付くことはない。助けてやっているとすら思う町の相手に全てを把握されていることを知ることはないのだ。まったくもって人間とは、哀しいほどに愚かな生き物であると思わざるを得ない。

「NPC…」
「ワールドリセットで復活したのかもしれませんね」

 建物はここから見てもわかるほどに半壊状態ではあったが町の入り口にまではまだモンスターも到達していないのかNPCとその付近の建築物に関しては無傷であった。緊張しながら進んでいた最中に突然投げられた声にクロームが驚きの声をあげたがNPCであることを確認するとホッとしながら彼女とほぼ変わらない視線のソレを骸も同様に見遣った。
 白色のワンピースを着た、武器ひとつ持たない案内NPCのようである。どこの町にも必ず1体は配置されている、町の端に居る町の名前だけを紡ぐNPC。黒の髪とワンピースを風になびかせ、通り過ぎようとしたクロームと骸の生体反応を感じ取り定められた言葉を紡ぐNPCは自分達よりやや若い少女だ。5秒に1度、申し訳程度にパチクリと閉じる瞼に呼吸は一切していないとわかる何も動かない肩。動きも設定されているのだろうか、スカートの両端を指先で掴みわずかに屈むその様子はまるで生きた人間のようであった。もっとも彼女の両目はNPCの証である赤の瞳を有しておりここまで人間に近くともそうではないのだが。

「さあ行きますよ、クローム」
「…はい」

 このPTには最後に加入したクロームだったが、それでも町というものは初めてではない。最初はNPCと人間の区別すらつけることはなく、挨拶をするだけのNPCにも律儀に礼をしては犬に笑われたことだって少なくはなかった。だが何度もそれを経験し、自分なりに少しでも彼らのことを理解しているつもりだ。

 ひとつ、彼らは冒険者や町人の生体反応を感知し、決められた言動をする
 ふたつ、彼らは両目とも赤い瞳を持つ
 みっつ、彼らはワールドリセットで全快で復活する
 よっつ、彼らのステータスは全員が一定である

 3つまでは誰もが知っていることであったが4つ目に関しては己のスキルにより気づいたことである。冒険者達特有のスキルに”観察”というものがある。町人にはできぬ芸当ではあったがこれは冒険者にとって必要不可欠な大事なスキルであった。見ることができるのは対象者のHP、MP、状態である。例えば対峙するモンスターのHPゲージを見ることができればあとどれぐらい戦えば倒すことができるかの予測ができる。味方のMPがどれほど残っているのか確認できればあとどれぐらい戦えるかの予測ができる。とても便利なスキルではあるのだがこれも人によっては得手不得手がある。犬はこういう細かいことは嫌いだし千種は細かな数値まで見ることはできないらしい。また骸はHPとMPのゲージを見ることはできるが状態だけは見ることができないらしく、その点においては誰よりも細かに見ることのできるクロームが一番何かと重宝される。
 ”状態”とは相手にかかったバフ、あるいはデバフだ。毒がかかった状態であるだとか眠っている状態だとか、見ればわかるマイナス効果であれば調べる必要はないのだが見たところ普通であっても実はプラス効果のあるバフがかかっている可能性もある。一時的にステータスが上昇するバフを持っているモンスターも高レベルになると何度か会ったことがあるし、その時は必ず知らせるように骸から指示がなされている。――しかし、これは。

「クローム?」
「は、はい!行きます」

 その珍しいステータスは何だろう。好奇心が勝りずじいっと見入っていたのだが呼びかけられハッと我に返ったクロームは慌ててリーダーである骸の後を追う。

「……」

 ちらり、最後に違和感を覚えたまま先程のNPCへと振り返る。彼女のHP、MP共に満タンで何ら可笑しなところは見当たらない。だというのに、何故彼女のステータスにあんなものがついているのかクロームは分からなかった。

 ”戦闘待機中”

 あのようなステータスがつくということはこの町のNPCは案内係も戦闘モードを掲載されているのだろうか。とはいえ今のところ自分達に害があるようなものではないとみなし、それはただクロームの心中にそっとしまうことにし、ただ警戒先を町中へと移行し武器である三叉槍をぎゅっと握りしめこれからの戦闘に備えるべく意識を集中させる。
 町へと歩く2人の背中を見ている視線には気付くこともなく。
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