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「……ねえ」

 声をかけてから、彼女の姿がないことに気付く。ああ、そう言えば買い出しに行くだとか何とか言っていたっけ。どうせ僕に食べたいものを聞いたところでハンバーグでしょう? なんてさっきまで笑っていたのに君ったらいつの間にか買い出しに行ったんだね。脱ぎ捨てられたエプロン、重ねられた色々なサイズの皿。皿なんて二、三枚あれば足りるものだと思っていたのに出すメニューによって変えたいのだとねだったのは多分初めての我儘だったんじゃないかな。
 出されたお茶はすっかり冷めてしまっている。報告書を見ている間にいれてくれていたようだった。こくりと嚥下、きっと帰ってくるまでに飲んでおかないとまた口煩いだろうからね。
 静かな食卓は何とも味気ない。あれもこれも、箸置きやテーブルクロスに至るまで彼女の趣味で揃えたキッチンは彼女が居ないと意味がないんだ。

 …さて、じゃあ出迎えにでも行こうか。きっと君は僕のためにたくさん買ってきてしまうだろうから。

「ねえ、今どこに居るの」

(何てことない昼下がり)
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