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ごそごそ、ごそり。……ああ、今日もやって来てしまった。何でだろうなあ。何でこうなっちゃったんだろうなあ。背後から擦り寄り、やがてぴっとりと背中にくっついてきたのは決してお化けではない。決して怖い映画を見てしまったせいでひとりで眠れなくなってしまった可愛い妹なんかではない。
「ねえ恭弥」
「起きてたの」
「絶対寝てても今のは起きるから。さすがの私もそこまで鈍くはないからね」
並盛中学校の風紀委員長。不良集団のトップ。名家のご子息。私の大事なひと。失いたくない人。全部ひっくるめたその人の名前を雲雀恭弥と言う。
風紀委員の仕事帰り、随分疲れたのだろう彼がリビングのソファで眠っていたのは知っていた。起こすのも申し訳ないなと思っていたからこっそり自室に戻って眠っていたのに。…言い訳ではないけど、この人にくっつかれたくないということじゃない。嬉しい、のだけど何だろうなあ。言葉がむずかしい。
「ねえ」
「わっ、え、ちょっ」
どう言えば彼専用のソファに戻ってくれるか悩んでいると腕をいきなり後から回され、いつの間にか私の上に恭弥が乗っかっている。お揃いのパジャマだって言うのにどうして年下のこの人が着ていると色気を感じさせるのだろう。まだ半分濡れた髪から滴り落ちる水滴が顔に当たる。冷たく肩を震わせるとそこをぬるりと舐め取られ文句を言おうとしたのにそれを彼は一切許してはくれなかった。
「ダメかい」
それは聞いているようで聞いていない。もはや彼の中で決定事項の事なのだろう。気が付けばパジャマの内側に手を伸ばし始めた彼は下唇をペロリ。捕食者の顔だった。
…それにときめいてる私も私なんだろうけど。
そんなことを口にするのは苛立たしく、せめて少しは大人の対応をしてやろうと私も恭弥へと腕を伸ばす。
(あざとシリーズ1)