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「ねえ」
「はい、何でしょう!」

 雲雀さんが携帯をちゃんと持ち歩くようになった。
 いや、学生の時に持っていたガラケーはよく使いこなしていたんだけど所謂スマホになってからは何が気に食わないのか通信機器の一つも持ってくれなくなって非常に困ったものだったのだけど何を思ったのかまた突然買ってこいと近くの携帯ショップに駆け込まされそして設定をさせられているこの有様。
 突然呼ばれて何事かと思うとまた雲雀さんの不機嫌顔。私が何をやらかしたのだというのだ。

「見て」
「?」
「早く」

 ずずいと私の顔面に押し付けられる雲雀さんの携帯。近すぎて何も見れる状態ではなかったけど取り敢えず受け取ってその画面を見る。
 何の変哲もないただのライン画面だ。というかこの人私みたいな下っ端にこんなプライベートなアプリを見せて良いのだろうか。しかしながらそこは恐れ多くも私がテストの為に使った私とのトーク画面が広がるばかり。『テストです』その一言しかないこの画面に一体何が不満だというのか。

「これ、何で」
「え。…ああ、そういう趣向なんですよコレ。冬は雪が降ってくるんですよ」

 雲雀さんが言いたいのはこのヒラヒラと画面の上から落ちてくる桜の花弁が降ってくる仕様。確かアイ○ォン限定だったような気がする。私は違うから初めて見たけど。これが気に食わないのか。邪魔な仕様めとかおもっているのだろうか。あ、でも何か雲雀さんは桜がお嫌いだとか草壁さんから聞いたことあるような無いような…詳しいことは聞いたことないけどこれすら嫌いって別にアレルギーとかではないのだろうか。

「そうじゃない」
「ぃでっ!」

 もう一度ぶつけられる画面。
 ファンデーションが画面についてしまったけどこれは絶対絶対不可抗力ですと文句を言いながらもハンカチで綺麗に拭き取りながら雲雀さんの言いたい事をいまいち汲み取ることができずに頭の上にクエスチョンマーク。かれこれ1年程彼の下について仕事をしているけれど未だ分からないことが多い。何を考えているのか、何がご不満なのか。何を怒って私を睨んでいるのか。ああ綺麗な顔が台無しです。

「どうして送ってこないの」
「…どうして、と言われたって」

 送って欲しかったのだろうか。これまたどうして。
 慌てて携帯を取り出して目の前に居るというのにテコンとスタンプ1つ。あ、やば友達に送る要領でパンダがハート持ってるスタンプ送っちゃった。これは流石に上司にはふざけすぎ「ふぅん」…やばい死ぬ。詰んだ。こわごわと隣にいる雲雀さんの顔を窺い見るように見上げるとさっきよりは随分と怒りの表情が和らいでいるようにも見える。え、あ、何パンダがすきなのかな。鳥やハリネズミだけじゃなくて動物全般オッケーなのかもしれない。
 そんな事を思いながら何とか生きている自分を褒めてあげたくもなりエヘヘなんて笑っていると雲雀さんは携帯の画面を嬉しそうに3度目、私の唇に押し付けて。


「また送ってね」

 どことなく嬉しそうに見えたなんて思ったのは自惚れでしょうか。ああもう、私の脳内に花弁が舞っています。

(花舞)
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