ペパーミントの初恋


 獄寺の様子がなんだかおかしい。そう先に感じ取ったのは沢田だったのか山本だったのか。
 元々獄寺は読書家と言うほどではなかったが、それなりに本を好むことは知っていた。もっとも専門的で理系なものというよりは宇宙だSFだ世の不思議だなどというまた少し変わったジャンルの方が多かったのだが。どこでそんなものを覚えてきたのか定かではないが、とにかく獄寺はそういう少し変わったものをよく手にしていて、沢田も初めは驚いたものだった。だから最近――入学してすぐ、リボーンが沢田の元にやって来てから色々慌ただしく騒がしかった日が落ち着いてから並中の図書室に通いだし始めても納得こそすれ違和感など思うことはなかったのである。

「ねえ、山本」
「ん?」
「最近、獄寺くんってよく図書室行ってるよね」

 常に一緒である、というわけではなかったがそれでも獄寺や山本はたいてい沢田のそばにいてくれた。親友と言ってくれる山本、右腕だと主張する獄寺…どちらも沢田にとって大事な友人で、それは素直に嬉しいと思う。ダメツナと呼ばれていたあの頃に比べると雲泥の差だ。
 しかし彼らも当然、彼らの生活がある。獄寺はなんと中学生にしてバイトをしているし、山本は放課後に野球部の練習がある。一人で帰ることもあれば皆で放課後に沢田の家で宿題をする日もある。そんな日々を送っていたのだがなんだか最近獄寺が高確率で図書室に通っているような気がするのだ。

 その頻度、おおよそ隔日。二日に一度。
 
 一緒に図書室へ行くわけでもなく放課後になったら沢田に一言告げ、すぐに戻ってくるからと猛ダッシュで向かい、十数分後には帰ってくる。最近になって獄寺の趣味の本がそんなに増えたのかと思うほど頻繁に通っているので初めは図書室に行っていないのではないかと疑ったほどだ。
 しかしその腕には毎度違う本が抱えられているのでどうやらちゃんと行ってはいるらしい。が、

「なんていうか、オレだったらあんなに通うぐらいなら一度でいっぱい借りちゃうんだけど」
「あー、まあすぐ返しに行ってるもんな。獄寺って」

 そんなに短い期間でしか借りられない本なのだろうか。不思議には思うが残念ながら自分は図書室に用事はない。本を見れば眠くなってしまうしあの静かな場所が何となく苦手なのだ。だからこそ想像する。
 なぜ獄寺はあんなに頻繁に図書室に通うのかを。

(…趣味が一緒の友達ができた、とか)

 それならまさに喜ばしいことだ。
 獄寺は一匹狼みたいなところがある。自分たち以外と話をしている姿なんて見たことがないし、また他の人間と話さなくてはならない時なんて嫌そうな雰囲気を隠そうともしない。それが女子にはたまらないらしいが同性にはあまり評価はよくないのだ。もちろん彼はそのようなことを一切気にもとめていないのだろうけれど。
 そう考えると筋は通る。何故なら最近の獄寺ときたら授業が終わる前からそわそわし始めるし、放課後になれば上機嫌になっているのだから。まるで図書室に通うためだけに学校へ来ているかのようにも見えるほどで、しかしそれを言及するのもなあと今まで本人に問うたことはない。

「あ、噂をすれば、だぜ」

 山本がついと指をさしている方向を見るとこちらへ足を向ける獄寺の姿が見えた。時計を確認するとやはり十数分。いつもと同じぐらいの滞在時間だ。
 どうやら今回も本を借りてきたらしい。本を手に持ちマジマジと表紙を見ている様子はきっとお目当てのものが見つかったのだとわかる。

 ――しかし、それにしてはどことなくいつもと雰囲気が違うような。

 表紙を見ては口元を抑え、後ろを振り返ってはまた表紙を見つめ。元々白い肌はほんのわずか高揚しているようにも見える。今にも本に頬擦りしそうな勢いで、なんだかその本をまるで宝か何かのように思っているようだった。どうしても借りたかったものだったのだろうか。見たかったものだったのだろうか。

「お待たせしました10代目!」
「あ、うん! 本は見つかった?」
「はい!」

 あまりにも嬉しそうなその様子に突っ込むことすらできずちらりと表紙を見てみると珍しくもミステリーもののようだった。新しいジャンルでも開拓したのだろうか。それとも自分の憶測通り友人ができて、その人に紹介してもらいでもしたのだろうか。
 とにかく終始上機嫌な獄寺がこれまた大事そうに鞄にそれを仕舞うのを見届けながら山本と沢田は不思議そうに顔を見合わせるのであった。

「…春だな」

 いつの間にかそばにやって来ていたリボーンがぽつりと呟いた。



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