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 6月ともなればしとしとと雨が降り始める日が多くなっていく。
とは言え恵みの雨。畑には必要なものであり、それがやがて自分達の腹に収まるのだからある程度は致し方ないと言えよう。
 もっともそんなことは短刀達にはまったくもって関係なかったのだが。


「あーあ、きょうもあめですね」
「てるてる坊主を作れば晴れるって主さまが言ってました」
「ティッシュ使い切ったら長谷部さんに怒られちゃうよ」

 食事を終えた彼らはあーあとまた声を揃えて窓から外を見ていた。特に外へ出て遊びたいという訳ではない。だけど折角ならば晴れて欲しいというのが正直なところだろうか。主である律の計らいで植えられたアジサイは確かにそのお陰で元気そうなのだけど、だからといって自分たちがそうなのかと聞かれれば決してそうではない。
 ごろんごろんと転がるばかりではつまらない。廊下を走っても長谷部に怒られるのは分かっているし、じゃあ何をすればいいというのだ。


「おーい、主が折り紙くれたぜ」

 皆で食事をする広間に加州がそれを持ってきたのは突然のことだった。だらけた空気の中、それでも主が持ってきたものとしてわらわらとやって来る刀剣たちはまさか普段は時間遡行軍と血を流し戦っている者とは到底思えない。
 「あ、ボクこれにする!」折り紙と聞いてもあまりピンとくるものはなかったがそれでも可愛いものを好む乱のことだ、途端に目を輝かせ嬉しそうに桃色の正方形の紙を迷わず手に取る。けれどそれをどうするものなのかよく分かってはいない。目の前にまで持ってきたものの盛大に小首を傾げる様にフフンと楽しげに袖をまくりやって来たのは鶴丸だ。


「俺が手本を見せてやるぜ」
「何折れるんですか?」
「そりゃあ俺が折るからには鶴だろ鶴」
「……」
「…………」
「……それほんとうにつるですか?」
「何か…脚、長くない?」
「こりゃ驚いた」

 何故そうなってしまった。どうにも鶴丸は本気だったらしいことこそが驚きである。わざとではなかったらしいのだがどうして鶴に長い足が2本現れてしまったのか。ドッと笑いが起きたものの師が居ないのであれば次はどうすればいいのだ。
 加州が折り紙と共に持ってきてくれた本だって1冊しかなく、自分の番に回ってくるまでそれぞれ自由に折ったり落書きしていたりとまるで幼稚園だった。たまたま通りすがった岩融もその小さな集まりに捕まり折り紙で何か作れとねだられこの季節らしい蛙を折ったもののとんだ化物が出来上がってしまいさらに笑いが増える有様。

 いつの間にか大きな座卓は粟田口派の男士と今剣が占領する形となっており、皆が銘々に広げるものだからそろそろ夕餉の準備をしようと厨からやって来た燭台切がおやおやと目を細めその惨状に何もコメントをつけられずにいる。


「夕餉はいらないのかな?」
「はーいぼくはたべます!」
「でももう少し待って!まだ折れてないんだ」
「見てくださいこのリアルな狐を」
「鶴丸さん次それ脚2本できたしがに股です」
「…こりゃ驚いたな」

 和気藹々、人の話なんて聞く耳持たず。
 この様子を長谷部が見たら怒るだろうと燭台切が困っていると当の本人がやって来て「夕餉は要らんのか!」とやはり一喝。ここまでがやはり通常運営というべきだろうか。


「…皆、主に差し上げたいそうだ」

 とうとう彼らのこの珍しく素直に動かない理由を代弁したのは一期である。そう言われてしまえば流石の長谷部だってそれ以上言える訳もない。
 長谷部さんも折ってください!紫色の折り紙を手にドッカリと座り込むと折り紙教本を片手に1ミリたりともズレないように折り始めるのは流石長谷部といったところか。


「あるじさまも折るんですか?」
「……いや、主は究極な不器用らしい」
「…長谷部さん、その手にしているのは何ですか」
「これは以前主にもらったものだ。…何か分かるか」
「………ブタさんですか?」
「そうだ、五虎退の虎だ」
「!」

 明らかに鶴なんかよりも簡単そうに見えるものだ。
 以前長谷部はこれをもらい、どうしていいのか分からないので貰ったお守りの中に入れていた訳なのだが…なるほど、短刀達もどういう反応をすれば良いのかわからないといった顔をしているのは見ものであった。

 自分達の主である律には彼女自身困っていると自ら言った短所が数点ある。そのうちの1つがこの手先の不器用さだろうか。ぱそこんなるものはカタカタと鳴らしながら報告書を次々と仕上げていくのだがこういった事は苦手らしい。
 一応折り紙もネコの形はしているものの黒ペンで追加されたイラストは明らかにブタと言われても仕方のないことだろう。上手く作れたら五虎退にあげようと眉を下げながら言う彼女の事を長谷部は忘れていない。ならば五虎退にそう素直に言えば良いと思うのだが今は彼女も故あってあまり部屋から出られぬ身なのである。その理由を、彼らはまだ知らない。そして律が言うつもりがないのであればそれを知っている数少ない古株である自分も口を滑らせる訳にはいかないのである。


「…よし、兎に角皆これで出来上がったな?今日の主に夕餉を届ける役は誰だ」
「はーいぼくです!」
「では今剣、これらを頼んだぞ」
「わかりました!」

 多様な思いを込めつつ皆の手で折られた歪な鶴、花、動物。最後に皆で千切り絵のようにして画用紙に貼り付けたアジサイ。全員の傑作を小さな手でいっぱいにした今剣はにっこりと微笑みそれを皆の愛する主に届けに走ったのだった。


「あるじさま、喜んでくれるかな」
「決まっているだろう」
「だって、僕達はあまり主君とは…」
「大丈夫だ、お前らにもいずれ分かる時が来る」

 律が審神者として此処へやってきて早半年以上。あまり彼女と交流を持つことのなく男士達だけで生活をしているといっても過言ではないことに多少不安を覚えている者もいないでもない。
 だけどもう少し、あとすこしだけ。律の努力が早く実るようにと長谷部はネコ…否、虎の折り紙の入ったお守りを服の上からそっと握ったのであった。残念ながら彼はそれしかできなかったので。
(雨降り男士)
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