君を見つけるのが特技なのです


 秩序を乱す者を決して許してはならない。

 それは僕が風紀委員に入った時から、その前から決まっていた絶対ルール。だけど実はこの委員に入るため必要とする特定の条件もなければある程度強い人間が入らなきゃならないなんて決まりもなかった。ただそういう人間が勝手に集まってきただけ。本当さ。だって僕だって僕から誰かを集めたこともなければ誰かに勧誘されてこの委員会に入ったわけじゃない。

「じゃあこれで決まり。後は適当に報告して」
「分かりました!」

 春先は一番何かと忙しい。動物が冬眠から目覚める時期、変な輩がやってくるのも力を驕り秩序を乱す奴等がやってくるのも大体この時期だ。毎年毎年よくも飽きもせず同じことが起きるものだなと思わざるを得ない。
 言っておくけど僕は別に春が嫌いなわけじゃない。この時期に満開になるアレは相変わらず好きになれそうにないけれどそれ以外であればむしろ新しい獲物に会えたりするぐらいだ、楽しいとさえ思える。

 そんな中、卒業した3年を除き今回も大体同じメンバーである事を何となく名簿を見ながら確認して、その中に目当ての人間の名前が載ってあることに気付き知らず知らずのうちにふぅんと笑みを浮かべることとなる。
 ミョウジナマエ。2年目、この名簿に載るのは2回目の名前で唯一の女子生徒だった。
 特に目立っているというわけではない。だけどこの男ばっかりの委員に女が入ってくるのは相当くじ運が悪いか、相当腕っ節に自信のあるヤンチャかのどちらかだったけどミョウジナマエは間違いなく前者だった。

 彼女は僕と2人で話した事があることを覚えていないに違いない。入学式、何故だか迷子になって泣きそうになっている新入生の手をとって校内を歩き回ったことなんて僕は一度しかない。良かった、と嬉しそうに口元を緩め、緊張をしていたそのガチガチの表情が一気に解けたその瞬間を僕は目の当たりにした。

『ありがとうございました!』

 何てことのない、ただの感謝の言葉。かけられて当然の言葉だったけど怖がられてきた所為なのかそれがとても珍しく困惑したところもある。つっけんどんに『入学おめでとう』と返した事はよく覚えている。そんな事、それも去年の事なんてきっと覚えてないだろうし僕だったなんて気付いていないに違いない。

 だからこそ彼女の名前がミョウジナマエだと知り、風紀委員に入って来た時はこればかりは運命かと思わずには居られなかった。
 だからと言って、何か変わったことがあるわけじゃない。何か変化があった訳じゃない。
 常に黙って僕の指示に対し頷き、目立ったこともせず黙々と仕事に励む。楽しんでいるのか苦行だったのか分からないその無愛想っぷりと比例した仕事の正確さ。他の彼らも真面目に取り組んではいるし男女差別をするつもりはないけどやっぱり女子の方がこういう時は細かく、ミスが少ない。気になるのは当然のことだった。
 風紀委員に入った人間は大体にして1度はいれば2年、3年と入ることも多い。だけど彼女のようにクジでやってきたのであれば任期も恐らくそこまでだと思っていたけれどいつの間にか彼女も1年繰り上がり2年になった。

 ミョウジはまた風紀委員になった。
 それだけが事実であり、そこに彼女の意志があったのか運の悪さがあったのかは僕は知らない。必要ない。

「今年も風紀委員なんだね」
「…あ、雲雀さんこんにちは。あの、…誰も立候補しなくて私が経験者だからと推されてしまって」
「そう」

 どうやら1年の時の運の悪さを引き継いだらしい。それでも僕は珍しく彼女のクラスの連中を褒めてあげようと思える気にもなった。まあ、彼女が風紀委員に入ってこなければ入ってこないで別の手段があったから別に良いんだけど。

 ミョウジナマエ。
 僕を怖がることもなく、ただの先輩として敬うただの一般女子学生。あの煩い草食動物達と馴れ合うこともなく模範的な平穏な日常を過ごしている彼女は今日も風紀委員の集まりに出席し、僕から目をそらすこともなく指示を聞き静かに頷いている。その視線が少しこそばゆいと思う事もあれば、気恥ずかしいとさえ思える事だってあることを、誰も知らない。
 解散の言葉と同時に皆と出て行く姿を惜しいと思えたけど引き止めたところで特別話すことはない。だけどその細い腕に風紀の腕章があるだけでどうにも楽しい気分になるのだろうか。またこれからも僕の視界に入る。それだけでどうしてこんなに浮ついた気持ちになるのだろうか。

「委員長…失礼ですが彼女に、何か…?」
「何もないよ」

 それほどまでに、他者にまでわかってしまうほどに見てしまうのは。
 どうして彼女のことをそこまで目で追ってしまっているのか、自分でもよくわかっていない。



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