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「…重い」
「‥あ゛?」

 気が付けば突っ伏していたミーティングルームではなく自室だった。久々のベッドに身体を預け、天井を見上げる。
 記憶が無いということは恐らくは酔い潰れたスクアーロを誰かが部屋まで運んだのだろう。記憶が途切れる直前の不穏な会話を思い出し手で髪の毛を確認するも幸いにも三つ編みに遊ばれた様子もない。ホッと息をつくのも束の間、よくよく見ると自分が何かに足を絡めて寝ている事に気付いた。

「…おはよう」

 そこにはスクアーロの足だけではなく腕までしっかり絡まされて文句の言いたそうなユウがいた。どうやら酔い潰れたスクアーロを運んだのは同室であるユウらしい。自分が留守にしている間もベッドを使う事無く律儀にソファを使っていたのだろう、シーツは真新しい匂いがした。

「悪ィ」
「酔払いは嫌い」

 同じ体勢で寝ていたせいか僅かに残る痺れと戦いつつユウを解放すると漸く眉間の皺が取れる。

「お前も言うようになったなあ゛」
「ルッスにスクアーロはそういう扱いでいいって聞いた」
「…あの野郎」

 自分の隣で寝転がりながらクスクスと笑うユウを見て1年でこういう表情も出せるようになったのかと少し安心する面もあり、その反面ユウを本当にこちらの世界に連れてきても良かったのかと少しだけ思うところも、あり。
 日本におけるユウの住所はもう知っている。日本に帰そうとしたのは何度かあったが、ユウがそれを望まなかった事もあって結局はいつでも帰られるように土地ごと買い取ってあるのはユウには内緒の話だ。

 こんな事をしても天涯孤独であるに変わりは無いのだが、それでも、それだけをする価値はユウの中に見出していた。

 まだ、子供だと。そう思っているところはあった。
 それでも今日改めてベルの隣に立つユウを見てやはり日本人だなと感じた部分もある。

「お前、背幾つだ?」
「……測ったこと無いから知らない」
「日本だったら測っただろ」

 成人男性だと幾つぐらいだろう、と指通りのいい黒髪を堪能する。
 今後を考えると矢張りナイフだけでいいものか、それとも成長期を見越して他の武器も覚えさせるべきなのか。ベルとは違い型も何もないゼロからのスタートであるユウに何かを教えるのは意外と楽しいとルッスーリアが浮き足立っているのは今は良く分かる。

「…150、ぐらい」
「ちいせえなあ゛」
「皆が大きいだけで悪くない」

 指に絡ませた髪から覗くその、不意に見える項が。

 窓から射す月明かりに照らされた、その白い肌が。

 子供だと思っていたというのに少し離れていただけでこうも違って見えるものかと不思議な感覚を抱いた。そうだ、今は少しまだ酒気が残っているから可笑しいのだ。


――触れたいなどと。

「何、スクアーロくすぐったい」
「…ああ、悪い」

 きめの細かい肌に触れるスクアーロの手に抗議するために絡みつく細い指が。
 その不安げに揺れる、赤色の瞳が。

「っ、」

 くすぐったさを隠そうと喉を鳴らすその嬌声に似た声が。
 喉が、渇く。

「…ユウ」
「な」

 柔らかい、唇が。
 気が付けばユウの後頭部と腰に手を回しその柔らかいものを自分のもので塞ぐ。驚きに身をよじらせるユウを逃がさないように深く口づければやがて抵抗も大人しくなり、角度を変えるその合間に呼吸をするのが精一杯になっていた。

「っ、すく」
「…黙ってろ」
「んっ」

 頑なに拒もうとする唇をこじ開け逃げる舌を追い掛ける。無音の部屋に響く水音とユウの荒い呼吸が妙に生々しい。
 戦いに身を置いた幼いユウはこういう経験はないだろうと身を起こし組み敷きながら考えた。無垢だからこそ、勉学も、戦闘も覚えも早い。
 そして、無垢だからこそこうも昂るのだと。何も知らないユウを自分の下で乱れさせているのは紛れもない自分だとユウのふっくらした唇を喰らうかのように貪りつく。

「あっ」

 首筋に噛み付き強く吸い上げるとその白い肌に紅い花が咲く。
 確かこの服はベルのものだったかとユウには少し大きなシャツから見える細い肩に唇を寄せるとビクンと大きく震えた。

「ユウ」
「だ、め」

 涙ぐむその赤の目に、ずくりと、疼くのを感じてそこでスクアーロは我に返った。
 いやいや待てこれは寝起きのその生理現象な訳で、別にこんな色気も無いガキに何かを思うところもある訳ないし、そもそもこいつは男で、―――男で、
 何度も仲間には否定したが自分は同性愛の毛はない。だからこそ自分の今の状態に若干混乱しつつ自分が押し倒した子供を改めて見て、自分が今まさに触れようとしたそこが僅かに膨らみを見せていることに目を見開いた。

「お前、女…」

 生まれて初めて女から強烈な平手打ちをうけた事は酔いの覚めたスクアーロも覚えている。そして今日のことはいつまでも忘れられないだろうとも。

 肌蹴られた服を押さえながら部屋を去ったユウの後ろ姿をスクアーロはただ見送るしかできなかったのである。


『貴方ゲイって噂が流れてるけど知ってる?』
『……』
『んまぁ!否定しないのね!』


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