こすぱに!

歩き続ければ君に会えますか?  

 君は何を見ているのか。何が、視えているのか。
 そんなことを思われているだなんて君は思ってもいないに違いない。だって、…そうでしょう、君はかつて僕に拐かされた女神。僕らの女神。


「…何か、また変なこと考えてる?」
「失礼な。それではまるで僕がいつも変な事を考えているみたいじゃないですか」

 でもそうでしょう?なんて聞いてくるゆうはきっと、見えているのだと僕は思わずにはいられない。

 押切ゆう。それがこの世界で彼女が得た、彼女個体の名前。
 本来苗字も、その身体も違うことを僕は知っていた。しかしながら何故か、彼女はこの世界においてはその名を有し、容姿を変え生きている。今となればそれら全てが嘘であることを知っている人間が僕以外に居ると言うのに彼女はそれをまだあの雲雀恭弥ぐらいにしか伝えていないことも僕は知っていた。理由を問うてみれば「面倒くさい」の一言で一蹴されてしまえばやはり彼女は面白い人間であると思わずにはいられない。否、その先読みの、先々を知っている知識がなければただの一般人なのだが。


「ああ、そういえば骸」
「何ですか?」
「お誕生日おめでとう。昨日だったよね」
「……ハア、やはり知っているとは面倒だ」

 何でも知っているということは、知られているということは本当に不便だ。本人に聞いたこともないが恐らくは僕たちの過去の事だって知っているに違いない。
 恐ろしい?気味が悪い?化物だ?――…何も知らぬ人間たちから見ればそうとれるかもしれないが僕は寧ろそれぐらいの方が隣に居て居心地よく感じるのは確かだ。何故ならば僕もまた、…化物と、人間ではないと蔑まれ、この身をこの手を血に濡らし生きてきた人間だからだ。


「でもプレゼントはないから」
「…決して責める訳ではありませんが、知らない振りをしておけばそもそも良かったのでは?」
「でも、知っているならせっかくならお祝いしたいじゃない」

 だってお誕生日なんだもの。生まれた日でしょう。

 当然のようにお祝いしなくちゃね、と音の外れたバースデーソングを歌いだした暁には若干頭痛も感じられたがゆうは至って真面目だ。
 …そういうところ、嫌いじゃありませんがね。


「プレゼントは君の身体で、っていうのは?」
「……殴るよ」
「クフフ」

 冗談。君のようなモノに手を出し、のめり込んでしまうのは後々面倒くさいと分かっていますからね。いつか僕の手から、この世界から消えてしまうとわかっている人間に情など移してしまえば痛い目に合うのは僕ですから。
 だけど、この眼の前に。僕の前にいるこの時だけは。


「………驚いた、本当に殴ってほしかったみたい」
「頬にキスぐらいで初心すぎませんか」
「拳骨で許してあげる」

 この、今だけは。どうか。

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