どうにも僕はゆうに対して弱いらしい。
いや、その言葉は若干語弊があるかもしれないがそれでも間違いなくゆうに強く出ることのできない僕がいた。惚れた弱み?何とでも言うといいさ。どうせ彼女は馬鹿だし、鈍感だから何も気付いていないに違いないから。
「暑くなってきたねえ」
「もうすぐ6月だからね。夏服の用意はできてるの」
「おかげさまで。今年もお世話になります」
「うん」
押切ゆうという人間は普通であって、普通じゃなかった。普段は鈍臭いくせに運動神経が良いだなんて誰が思うだろう。どうにも勉強ができそうだと思われるような見た目をしておいて一度走らせれば運動部の連中が目を輝かせ彼女を自分の部へ勧誘しようと追いかけっこをしているのを僕は知っていた。
嫌そうにしていれば僕が断ち切った訳だけどそれですらゆうは楽しそうにするから一応見守っている訳だ。あまりにも酷いようだともちろん制裁は下すけどね。
「暑いのはあまり好きじゃないけどなあ」
「春の方がいいの」
「秋でもいい。けど一瞬だからね、すぐ寒くなっちゃう」
ベランダに椅子を出してぼんやりと外を見ている彼女は、本当は僕より幾つも年上であることをまだ僕しか知らない。
押切ゆうとしてはまだ中学2年、僕よりも年下のはずなのに元居た世界では上。幼い身体だというのに中身が熟しているそのアンバランスさの実体を知っているのは僕だけだ。
ゆうの作った朝御飯を完食し、箸を置く。相変わらず何を考えているのだか、薄着のままの彼女は僕の事を意識なんてしていないに違いない。
一度は想いを告げたというのに忘れているのか。それとも僕自身がその事を忘れていると思っているのか。いや、恐らく中学生が何もしないと安堵しているだけな気もしないでもない。そうであるなら今すぐ実力行使で意識するよう仕向けてもいいけれど、ゆうが怖がる可能性だってある。
…馬鹿馬鹿しいと笑うかい?
僕は彼女に怖がられる事を何よりも恐れていることをさ。
トンファーを持って追いかけ回したところでこの子は怖がらないだろう。トンファーを振り回したところで驚くものの「わー本物だ!」なんて馬鹿みたいな反応をして終わるだけだろう。
彼女は、彼女曰くの”登場人物”に対し何か特別なことをされることに恐怖を覚えている。僕も最初はよく分からなかったけど、どうやら僕もそれに該当するのだという。その中にはゆうが知っている未来から外れるようなことも含まれていて、僕が好意を抱くことも少しは認めてくれているのだろうけど恐れのうちに入っている。
「ゆう」
「あ、おかわり?もうご飯ないけ…うわあ!」
いつの間にか僕がゆうの後ろに立っているとは思わなかったらしい。慌てて立ち上がろうとしたゆうの頭を捕まえて腕の中に掻き抱く。丸い頭が抵抗しようとしたけどそんな事を許すはずもなく。僕の腕の中でもぞもぞと動く彼女はきっと顔を赤くしているだろうけど、それは…僕も同じなわけで。
もっと近付きたいのに。もっと、触れたいのに。
そう思ったところで、実行しようとしたところで臆病なゆうは逃げてしまうだろう。これは本当の自分ではないから、だなんてもっともらしい理由をつけて。挙句の果てには中学生なんだからなんて言われてしまえばもう手立てはない。
だからもう少しだけ、待ってあげる。
「暑くないの」
「そうでもないよ。ゆうはこのままじゃ暑いかい」
「うーん、今は心地いいかな」
…本当、無自覚って怖いよね。仕方ないから今のは都合の良いように捉えないでおいてあげる。でも覚えておいて。いつか必ず、
「 」
何年先になってもいい
君に早く認められる人間になってみせるから。その時は君も逃げないで僕を見てね。
いや、その言葉は若干語弊があるかもしれないがそれでも間違いなくゆうに強く出ることのできない僕がいた。惚れた弱み?何とでも言うといいさ。どうせ彼女は馬鹿だし、鈍感だから何も気付いていないに違いないから。
「暑くなってきたねえ」
「もうすぐ6月だからね。夏服の用意はできてるの」
「おかげさまで。今年もお世話になります」
「うん」
押切ゆうという人間は普通であって、普通じゃなかった。普段は鈍臭いくせに運動神経が良いだなんて誰が思うだろう。どうにも勉強ができそうだと思われるような見た目をしておいて一度走らせれば運動部の連中が目を輝かせ彼女を自分の部へ勧誘しようと追いかけっこをしているのを僕は知っていた。
嫌そうにしていれば僕が断ち切った訳だけどそれですらゆうは楽しそうにするから一応見守っている訳だ。あまりにも酷いようだともちろん制裁は下すけどね。
「暑いのはあまり好きじゃないけどなあ」
「春の方がいいの」
「秋でもいい。けど一瞬だからね、すぐ寒くなっちゃう」
ベランダに椅子を出してぼんやりと外を見ている彼女は、本当は僕より幾つも年上であることをまだ僕しか知らない。
押切ゆうとしてはまだ中学2年、僕よりも年下のはずなのに元居た世界では上。幼い身体だというのに中身が熟しているそのアンバランスさの実体を知っているのは僕だけだ。
ゆうの作った朝御飯を完食し、箸を置く。相変わらず何を考えているのだか、薄着のままの彼女は僕の事を意識なんてしていないに違いない。
一度は想いを告げたというのに忘れているのか。それとも僕自身がその事を忘れていると思っているのか。いや、恐らく中学生が何もしないと安堵しているだけな気もしないでもない。そうであるなら今すぐ実力行使で意識するよう仕向けてもいいけれど、ゆうが怖がる可能性だってある。
…馬鹿馬鹿しいと笑うかい?
僕は彼女に怖がられる事を何よりも恐れていることをさ。
トンファーを持って追いかけ回したところでこの子は怖がらないだろう。トンファーを振り回したところで驚くものの「わー本物だ!」なんて馬鹿みたいな反応をして終わるだけだろう。
彼女は、彼女曰くの”登場人物”に対し何か特別なことをされることに恐怖を覚えている。僕も最初はよく分からなかったけど、どうやら僕もそれに該当するのだという。その中にはゆうが知っている未来から外れるようなことも含まれていて、僕が好意を抱くことも少しは認めてくれているのだろうけど恐れのうちに入っている。
「ゆう」
「あ、おかわり?もうご飯ないけ…うわあ!」
いつの間にか僕がゆうの後ろに立っているとは思わなかったらしい。慌てて立ち上がろうとしたゆうの頭を捕まえて腕の中に掻き抱く。丸い頭が抵抗しようとしたけどそんな事を許すはずもなく。僕の腕の中でもぞもぞと動く彼女はきっと顔を赤くしているだろうけど、それは…僕も同じなわけで。
もっと近付きたいのに。もっと、触れたいのに。
そう思ったところで、実行しようとしたところで臆病なゆうは逃げてしまうだろう。これは本当の自分ではないから、だなんてもっともらしい理由をつけて。挙句の果てには中学生なんだからなんて言われてしまえばもう手立てはない。
だからもう少しだけ、待ってあげる。
「暑くないの」
「そうでもないよ。ゆうはこのままじゃ暑いかい」
「うーん、今は心地いいかな」
…本当、無自覚って怖いよね。仕方ないから今のは都合の良いように捉えないでおいてあげる。でも覚えておいて。いつか必ず、
「 」
何年先になってもいい
君に早く認められる人間になってみせるから。その時は君も逃げないで僕を見てね。
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