骸ちゃんが犬と千種を相手に何かをしているのは分かっていたけどその詳細を知らされることはなかった。
私達はたしかに今回の骸ちゃんの企みに加担したチームのメンバーではある。だけど別に、だからって仲間だってわけじゃない。
何の対価もメリットもなく骸ちゃんに付き従うのはあの2人だけ。信頼しているかどうかは別としてその輪の中に私が入ることはないし、入りたいなんて思ったこともない。
元々チームを組んで依頼を受けるようなことはしなかった。だってそんなことをすれば分け前が減るもの。いつも単独で頼まれたものを壊してきた。縋るものなんて要らなかった。何処にも所属していない私に、知人はいなかった。だって普段から1人で動くんだもの、当然でしょ?私が信じているのはお金と自分。その2つだけでそれだけで充分だった。
だけど、あの数日間はそんな考えすら浮かんでいなかったことに気付く。
こうやって何気なく隣を見ればあの子がまだ居るのだと思ってしまうことに。私が、望んで誰かと居たことに。
「…ゆう」
私のゆう。
今頃あの子は何をしているのかしら。今もまだあのマンションに住んでいるのかしら。
本当はもっと早く手を切るべきだったのにずるずると長居してしまうほど居心地が良かったあの場所を手放すのは惜しかったけど、早くこの依頼が終われば未だ間に合うかもしれない。
男ばっかりでホコリ臭いこの場所は過ごしにくく、することもなく、その日が来るのを待つばかり。あまり期待はできないけれど旅行に来たという有限の時間内でゆうとまた会えるのかしら。
──ドカッ
廊下に響き渡る音に思わず足を止め、眉根を潜める。
「……物騒ねえ」
あのマンションから出て指定された場所がここ、黒曜ヘルシーランド。
骸ちゃんはこの汚い場所を拠点に置くことを決めたみたい。どうやって見つけたのかわからないけど確かに人気もないしこれなら多少騒いだところで何の支障もないおあつらえ向きの場所だった。
まだ骸ちゃん以外会う必要もないし譲られた一室でぼんやりと過ごしてきたけれど、私が最初にここへやって来てから比較的平和な日本だっていう事を忘れそうなぐらい最近は変な人が増えたのは気の所為じゃない。
どうやら骸ちゃんがちょっと使えそうな人間を現地調達したらしい。今は全員血まみれで、誰も意識がないみたいだけど骸ちゃんの仕業なのかしら。
同じ制服を着ているのだからもしかするとこの制服の学校へ骸ちゃんが行ったのかもしれない。興味は全然なかったけど彼が普通の学生生活を送れるなんて思ってなければ想像だってつかなくて思わず笑ってしまったわ。
だって私達は普通じゃないもの。
人を殺すことのできる実力を持っている私達。
お金の為に何でも動く私みたいな人間もいればただ自分の欲望の為だけに人を傷つける人間もいる。私達は自分の欲望の為に手を汚すのを厭いはしない戦闘のプロ。
だから然るべきところで捕まれば死刑も免れはしない。そういうわかりやすい世界に私達はいる。
だけど彼らは見た感じただの喧嘩慣れした中学生と言ったところかしら。
『何、ちょっとしたお遊びですよ』
私からすればちょっと荒々しい骸ちゃんの作戦。聞かされた日本に来た理由。
もちろん本当の目的を聞いてはいないし聞く気もない。私達に命令したのはこの黒曜ヘルシーランドにやって来た侵入者を生死問わず倒すこと。
そのやって来るだろう人間にあの有名なボンゴレファミリーの、将来ボスになるだろう中学生が含まれているのだと聞いた時から若干正気を疑ったわ。ボンゴレみたいな大きなところに喧嘩を売ろうなんて無謀でしかないもの。
だけど目的の人間を少し怪我させるだけで意のままに操ることの出来るという骸ちゃんの力があるのなら、まだボンゴレの完全な庇護下にいない今の期間が絶好の機会なのかもしれない。
私には何の関係もないけれどもし骸ちゃんがボンゴレの主要人物になった暁には報酬はもっと弾んでもらわなきゃ。そうしたらしばらくは仕事もしなくていいし何の気兼ねもなくゆうとまた会えるわ。また、会いに行ける。
そう考えると辛気臭いこの場所ももう少し我慢できる。
不思議ね、あの子のことを考えるとここだって楽しく感じられるし花が舞っているようにも見えるもの。
「……花?」
ぴたりと足を止める。
ふわりふわりと私の前を舞う桃色の花弁は見間違いじゃなかった。
足元に、伸ばした手のひらに落ちるのは日本では有名な桜。綺麗だけどどうしてこんな場所に、それもこんな時期に。
その場所を辿ればどうやら骸ちゃんが普段から根城にしている部屋からのようだった。今からそこへ行こうとしているのにお邪魔かしら。ふと息を止めて様子を探ってみるけどそれ以上に何の音もしない。
…まあいいわ。私には何も関係ないもの。どうせ骸ちゃんの趣味でしょう。
相変わらず花弁の流れてくるそのボロボロのカーテンを潜って行こうとすると誰かがずるずると黒いものを引きずりこちらへ歩いてくるところだった。
「退け」
はいはい、相変わらず愛想のない人間だこと。無言で場所を譲り随分久しぶりな彼の姿を視界に入れる。
”六道骸の影武者”
世に知られている六道骸と本物が違うという事を知っている人間にだけ教えられたその影武者の名前はランチア。
依頼主である骸ちゃん以外と話す義理もない。
だから私は彼の名前を呼ぶことはないしどういう経緯でその位置に落ち着いたのかは知らないけど私は彼に少しだけ同情はする。これは女の勘よ。骸ちゃんと一緒に居たところでロクな事がないに違いないもの。弄ばれて使われて終わる。そんな人生真っ平ごめんだわ。
ふとすれ違う時にちらりと視線を落とす。
当然だけど、知らない男だった。私達と違う制服を着た黒髪の顔は見るも無残に血まみれ。
バカね、骸ちゃんに喧嘩を吹っ掛けにきたに違いないわ。ただの一般人がマフィアに、人殺しに喧嘩を売って生きていられるだけありがたく思わないと。
「おや?どうしましたМ・М」
「…ちょっと武器の手入れをね」
「クフフ、そうですか。それは頼もしい」
部屋の中は骸ちゃんが一人だけ。
私の姿を認めると楽しげに声をかけてきたけれどそこに感じられるのは僅かながらの苛立ち。来るタイミングと違えたかしら。さっきの男と何かあったのかなんて邪推もいいけれど私だって自分の生命は惜しい。
「綺麗ね、これ」
「そうですね」
心底どうでもいい、感情の伴っていない会話を一往復。そのままパチリと指音を鳴らすと今まで見えていた桜が跡形もなく消え去った。どうやら私の知らない界隈の、幻術だったらしい。
私とそれ以上会話をすることもなかった骸ちゃんはそのまま部屋を出ていった。
この場において依頼主は骸ちゃん。
そして彼が連れている人間は、私が紹介した人達だけど厄介な連中ばかりで、私を簡単に殺すことができる。死にたくはない。死ぬつもりはない。
あの牢獄での出来事を思い出すとしくじることは死に直結しているとよくわかる。こんな仕事、これっきりにしてほしいけれど。
「…何、あんた」
やっと部屋の主が出ていったのだからと目的である私の鞄を、クラリネットを入れてある鞄を置いてある小部屋を覗くとそこには先客が1人。
…ああ、確かランキングのフゥ太、だったかしら。その情報の正確さに各所が狙うっていう噂の。あまり興味はなかったけれどそれで金稼ぎが出来るなんて羨ましいと思って記憶にかろうじて残っていた。だけど、彼がどうしてここに。
「リスト外…仕方ない…だけど……大丈夫」
だけど何の反応もなくボソボソとつぶやいているばかり。何よこの子、辛気臭いわね。何処を見ているのか、私が声をかけたというのに視線はひとつも合うこともなかった。気でも狂っているのかもしれない。話している内容はことごとく分からず、此処に居るってことは骸ちゃんがもしかして彼に何か仕掛けたのかもしれないと思ったからこそこれ以上何も言わず足元の私の鞄に手を伸ばす。
「ゆう」だけど、私の手がとまったのは聞いたことのある名前が零れ出たからだった。たらりと垂れる冷や汗。今、何を言った。この子は今、何を話したの。鞄を足元から引きずり出し、立ち上がって睨みつけるけど相変わらず私の事なんて気付いていなかった。
「仕方ない…僕は悪くない…」
「ゆうがどうしたの。何を知ってるのあんた」
聞き捨てならない言葉。
聞き間違い?人違い?そんな事、この場においてありえる訳がないじゃない。
私の放ったゆうの名前。それに対してビクリと大きく身体を揺らした子どもはまた澱んだ目で呟き続ける。間違いなく、化物と。
「化物、押切ゆうは非表示の、化け「うるさいわね!私のゆうはゆう以外何者でもないのよ」」
胸倉を掴み、小さな身体が宙に浮く。だけど相変わらずその目に私が映ることはなく、だけど、だけどと言葉を紡ぐばかりだった。
何よ。あの子の事をどうして知っているの。ゆうの何を知っているの。あの優しい子にそんな言葉を言ったらただじゃおかないわ。
──…ちょっと変な力を持ってるのはあんたも同じくせに!
そう言いたかったけれどギリギリでぐっと堪えた。骸ちゃんの玩具に何かをしてしまえば私の命だって危ない。それにこの子どもが知っているということはもしかすると。
手を離しゴホゴホと咳き込む子どもに何も覚えやしない。私の感情を振り回すのは、ただ一人のあの子。化物なんて言わせない。
あの子は普通の子。私だけの子。
鞄を握りしめそのまま彼に二度と視線を遣ることもなく私は呻き声の溢れる廊下へと飛び出した。
「私はね、未来は分からないし明日の私がどうなるかも分かってないけどさ」
……ゆう、あなたもしかして、
こすぱに!
ここに、いるの?
私達はたしかに今回の骸ちゃんの企みに加担したチームのメンバーではある。だけど別に、だからって仲間だってわけじゃない。
何の対価もメリットもなく骸ちゃんに付き従うのはあの2人だけ。信頼しているかどうかは別としてその輪の中に私が入ることはないし、入りたいなんて思ったこともない。
元々チームを組んで依頼を受けるようなことはしなかった。だってそんなことをすれば分け前が減るもの。いつも単独で頼まれたものを壊してきた。縋るものなんて要らなかった。何処にも所属していない私に、知人はいなかった。だって普段から1人で動くんだもの、当然でしょ?私が信じているのはお金と自分。その2つだけでそれだけで充分だった。
だけど、あの数日間はそんな考えすら浮かんでいなかったことに気付く。
こうやって何気なく隣を見ればあの子がまだ居るのだと思ってしまうことに。私が、望んで誰かと居たことに。
「…ゆう」
私のゆう。
今頃あの子は何をしているのかしら。今もまだあのマンションに住んでいるのかしら。
本当はもっと早く手を切るべきだったのにずるずると長居してしまうほど居心地が良かったあの場所を手放すのは惜しかったけど、早くこの依頼が終われば未だ間に合うかもしれない。
男ばっかりでホコリ臭いこの場所は過ごしにくく、することもなく、その日が来るのを待つばかり。あまり期待はできないけれど旅行に来たという有限の時間内でゆうとまた会えるのかしら。
──ドカッ
廊下に響き渡る音に思わず足を止め、眉根を潜める。
「……物騒ねえ」
あのマンションから出て指定された場所がここ、黒曜ヘルシーランド。
骸ちゃんはこの汚い場所を拠点に置くことを決めたみたい。どうやって見つけたのかわからないけど確かに人気もないしこれなら多少騒いだところで何の支障もないおあつらえ向きの場所だった。
まだ骸ちゃん以外会う必要もないし譲られた一室でぼんやりと過ごしてきたけれど、私が最初にここへやって来てから比較的平和な日本だっていう事を忘れそうなぐらい最近は変な人が増えたのは気の所為じゃない。
どうやら骸ちゃんがちょっと使えそうな人間を現地調達したらしい。今は全員血まみれで、誰も意識がないみたいだけど骸ちゃんの仕業なのかしら。
同じ制服を着ているのだからもしかするとこの制服の学校へ骸ちゃんが行ったのかもしれない。興味は全然なかったけど彼が普通の学生生活を送れるなんて思ってなければ想像だってつかなくて思わず笑ってしまったわ。
だって私達は普通じゃないもの。
人を殺すことのできる実力を持っている私達。
お金の為に何でも動く私みたいな人間もいればただ自分の欲望の為だけに人を傷つける人間もいる。私達は自分の欲望の為に手を汚すのを厭いはしない戦闘のプロ。
だから然るべきところで捕まれば死刑も免れはしない。そういうわかりやすい世界に私達はいる。
だけど彼らは見た感じただの喧嘩慣れした中学生と言ったところかしら。
『何、ちょっとしたお遊びですよ』
私からすればちょっと荒々しい骸ちゃんの作戦。聞かされた日本に来た理由。
もちろん本当の目的を聞いてはいないし聞く気もない。私達に命令したのはこの黒曜ヘルシーランドにやって来た侵入者を生死問わず倒すこと。
そのやって来るだろう人間にあの有名なボンゴレファミリーの、将来ボスになるだろう中学生が含まれているのだと聞いた時から若干正気を疑ったわ。ボンゴレみたいな大きなところに喧嘩を売ろうなんて無謀でしかないもの。
だけど目的の人間を少し怪我させるだけで意のままに操ることの出来るという骸ちゃんの力があるのなら、まだボンゴレの完全な庇護下にいない今の期間が絶好の機会なのかもしれない。
私には何の関係もないけれどもし骸ちゃんがボンゴレの主要人物になった暁には報酬はもっと弾んでもらわなきゃ。そうしたらしばらくは仕事もしなくていいし何の気兼ねもなくゆうとまた会えるわ。また、会いに行ける。
そう考えると辛気臭いこの場所ももう少し我慢できる。
不思議ね、あの子のことを考えるとここだって楽しく感じられるし花が舞っているようにも見えるもの。
「……花?」
ぴたりと足を止める。
ふわりふわりと私の前を舞う桃色の花弁は見間違いじゃなかった。
足元に、伸ばした手のひらに落ちるのは日本では有名な桜。綺麗だけどどうしてこんな場所に、それもこんな時期に。
その場所を辿ればどうやら骸ちゃんが普段から根城にしている部屋からのようだった。今からそこへ行こうとしているのにお邪魔かしら。ふと息を止めて様子を探ってみるけどそれ以上に何の音もしない。
…まあいいわ。私には何も関係ないもの。どうせ骸ちゃんの趣味でしょう。
相変わらず花弁の流れてくるそのボロボロのカーテンを潜って行こうとすると誰かがずるずると黒いものを引きずりこちらへ歩いてくるところだった。
「退け」
はいはい、相変わらず愛想のない人間だこと。無言で場所を譲り随分久しぶりな彼の姿を視界に入れる。
”六道骸の影武者”
世に知られている六道骸と本物が違うという事を知っている人間にだけ教えられたその影武者の名前はランチア。
依頼主である骸ちゃん以外と話す義理もない。
だから私は彼の名前を呼ぶことはないしどういう経緯でその位置に落ち着いたのかは知らないけど私は彼に少しだけ同情はする。これは女の勘よ。骸ちゃんと一緒に居たところでロクな事がないに違いないもの。弄ばれて使われて終わる。そんな人生真っ平ごめんだわ。
ふとすれ違う時にちらりと視線を落とす。
当然だけど、知らない男だった。私達と違う制服を着た黒髪の顔は見るも無残に血まみれ。
バカね、骸ちゃんに喧嘩を吹っ掛けにきたに違いないわ。ただの一般人がマフィアに、人殺しに喧嘩を売って生きていられるだけありがたく思わないと。
「おや?どうしましたМ・М」
「…ちょっと武器の手入れをね」
「クフフ、そうですか。それは頼もしい」
部屋の中は骸ちゃんが一人だけ。
私の姿を認めると楽しげに声をかけてきたけれどそこに感じられるのは僅かながらの苛立ち。来るタイミングと違えたかしら。さっきの男と何かあったのかなんて邪推もいいけれど私だって自分の生命は惜しい。
「綺麗ね、これ」
「そうですね」
心底どうでもいい、感情の伴っていない会話を一往復。そのままパチリと指音を鳴らすと今まで見えていた桜が跡形もなく消え去った。どうやら私の知らない界隈の、幻術だったらしい。
私とそれ以上会話をすることもなかった骸ちゃんはそのまま部屋を出ていった。
この場において依頼主は骸ちゃん。
そして彼が連れている人間は、私が紹介した人達だけど厄介な連中ばかりで、私を簡単に殺すことができる。死にたくはない。死ぬつもりはない。
あの牢獄での出来事を思い出すとしくじることは死に直結しているとよくわかる。こんな仕事、これっきりにしてほしいけれど。
「…何、あんた」
やっと部屋の主が出ていったのだからと目的である私の鞄を、クラリネットを入れてある鞄を置いてある小部屋を覗くとそこには先客が1人。
…ああ、確かランキングのフゥ太、だったかしら。その情報の正確さに各所が狙うっていう噂の。あまり興味はなかったけれどそれで金稼ぎが出来るなんて羨ましいと思って記憶にかろうじて残っていた。だけど、彼がどうしてここに。
「リスト外…仕方ない…だけど……大丈夫」
だけど何の反応もなくボソボソとつぶやいているばかり。何よこの子、辛気臭いわね。何処を見ているのか、私が声をかけたというのに視線はひとつも合うこともなかった。気でも狂っているのかもしれない。話している内容はことごとく分からず、此処に居るってことは骸ちゃんがもしかして彼に何か仕掛けたのかもしれないと思ったからこそこれ以上何も言わず足元の私の鞄に手を伸ばす。
「ゆう」だけど、私の手がとまったのは聞いたことのある名前が零れ出たからだった。たらりと垂れる冷や汗。今、何を言った。この子は今、何を話したの。鞄を足元から引きずり出し、立ち上がって睨みつけるけど相変わらず私の事なんて気付いていなかった。
「仕方ない…僕は悪くない…」
「ゆうがどうしたの。何を知ってるのあんた」
聞き捨てならない言葉。
聞き間違い?人違い?そんな事、この場においてありえる訳がないじゃない。
私の放ったゆうの名前。それに対してビクリと大きく身体を揺らした子どもはまた澱んだ目で呟き続ける。間違いなく、化物と。
「化物、押切ゆうは非表示の、化け「うるさいわね!私のゆうはゆう以外何者でもないのよ」」
胸倉を掴み、小さな身体が宙に浮く。だけど相変わらずその目に私が映ることはなく、だけど、だけどと言葉を紡ぐばかりだった。
何よ。あの子の事をどうして知っているの。ゆうの何を知っているの。あの優しい子にそんな言葉を言ったらただじゃおかないわ。
──…ちょっと変な力を持ってるのはあんたも同じくせに!
そう言いたかったけれどギリギリでぐっと堪えた。骸ちゃんの玩具に何かをしてしまえば私の命だって危ない。それにこの子どもが知っているということはもしかすると。
手を離しゴホゴホと咳き込む子どもに何も覚えやしない。私の感情を振り回すのは、ただ一人のあの子。化物なんて言わせない。
あの子は普通の子。私だけの子。
鞄を握りしめそのまま彼に二度と視線を遣ることもなく私は呻き声の溢れる廊下へと飛び出した。
「私はね、未来は分からないし明日の私がどうなるかも分かってないけどさ」
……ゆう、あなたもしかして、
こすぱに!
ここに、いるの?
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