原作に関わらないのだから何をしても自由なのだと。
ただこちらの世界にやって来てしまっただけの異物がまさか原作のどんな一部であっても遭遇することなんてないに違いないと何処かで他人事のように考えている自分がいた。
踏み出さなければ、踏み込もうとしなければ前回のような事件は起こらないに違いないと高を括っていた。バスケットゴールが倒れてきて 京子ちゃんに当たりそうになったり、私を囮に恭弥がリンチに合いそうになった事だって私がこの世界に踏み入れようとした罰だと考えていた。だからこそ関わらないと。だからこそ近すぎない距離でいようと。
原作に係る何事も、未来の話は絶対にしない。
それから興味本位で話に関わる人間には自分から近付かない。
そう思っていたのに、それがこの世界と上手くやっていく、共存とはまた違う…私がこの世界に居ることを許される唯一の手立てだと思っていたのに。
「誰?」
じゃあこれはどう回避する。
私の記憶にある黒曜編というものは平日に行われていたはずだった。今となれば随分前になってしまうけどそれでも何度も何度も漫画やアニメで見たのだからそうであるに違いないと認識していた。信じきっていた。
彼らは平日の昼間に戦っていたことを。
黒曜編の始まりは制服姿で始まっていたことを。
なのに何故、どうして。
日曜日の夜、押切蓮造が彼によって狙われていたというそんなシーンがあったかどうかなんて今見返すことは出来ないけどそれがここで行われていて私が出くわすことになるなんて思ってもみなかった。
黒曜編の始まりが近いとはいえ関わることもなければ今日じゃないと信じきっていた。だからこそこうやって1人で出歩いたというのに。ぱしっ、と手持ちの武器の音を鳴らしている彼を私はただ呆然と見返すことしかできず。
柿本、千種。
目の前の彼の名前を私は知っている。だけどこの場に何故いるのかと問われれば私には答えることが出来なかった。
だってそうだ、彼が堂々と登場したのは隼人と対面する時じゃなかったか。並盛の、昼間の商店街で。
…違う。
そうじゃないんだと何処かで冷静に分析する自分が否定する。
もちろん私の記憶にある原作の通りに彼らは動いているのだろう。じゃあその書かれていない部分ではぴくりとも動いていなかったのかと聞かれればそうじゃないんだ。
彼らは生きている。
呼吸して、思考して、…例え流れは決められていたとしても彼らの意思で動いている。そして何かを起きるのであれば前準備がある──…それは夕方の私も思ったことじゃないか。
例えばもう既にフゥ太くんが捕まっているだとか。
例えばもう既にこの土日の時点で彼のランキングの通り誰か倒されつつあって笹川さん以上の人だけが平日に戦うことになっていただけだったとか。
…私がそれを知らないだけだったとか。
「…見られたなら壊す」
「!」
何の返答もない私を見て無駄だと悟ったのだろう。
ぱしっ、ともう1度聞こえたそれは見れば見るほどヨーヨーで、ヘッジホッグという名前であることも、隼人ですら苦しめられる事になる毒の針が入っていることを知っている。残念ながらその効果は自分の体で体験したことはなかったからこればかりは分からなかったけれど。
(……死ぬだろうか)
隼人が重症だったものが、私も同じぐらいとは限らない。
それに私には味方もいなければDr.シャマルという知り合いもいない。ここには来ない。こんなところで死んだら、私はまた戻されるのだろうか。痛いのだろうか。私の身体は今度こそ痛みを感じるのだろうか。
不思議と先程まで私の身体を震わせ思考を凍らせていたほどの恐怖は落ち着き始めていた。
ある程度を超えたせいでキャパオーバーしてしまっていたのかもしれない。こんな絶体絶命の場面であるというのにせめて、押切さんにこれ以上危害が加わらないといいけれどと思えたのは全てが麻痺してしまったからだろう。立ち上がる気力も沸き上がらずぼんやりとゆっくり目の前までやってきた彼を眺め、
「柿ピー、これは駄目らびょん」
だけどその時は来なかった。
まさにスローモーション、振り下ろされる手。当然ながら私は彼らにとって無関係で邪魔な一般市民でしかなく、それを片付けるために躊躇なんて全くない。だけど気が付けば目前にもう1人、それも私の方に背中を向ける黒曜制服。
「邪魔するの」苛立ち紛れに聞こえた声と同じタイミングでカランカランと小さい音を出したのはヘッジホッグから落ちた針のような長いもの。恐らくそれが毒針なるものだったのだろう。なるほど私はやっぱり刺されるところでそれを誰かに助けられたらしい。
静寂。
沈黙。
一体何が起きたのだろうか。どうなっているのか把握するためにおずおずと視線をあげると、
「死ぬ所らったな、おまえ」
決して正義の味方と言う訳ではなかった。
ヒャハハと楽しそうに笑いながら私を見下ろす彼は少し久しぶりの見た城島犬で間違いなかった。昼間、M・Mと一緒にいた時に会った時とは違い電灯にうっすらと照らされる彼らの緑の服はより一層不気味さを増す。
だけど助けられたのは確かだ。彼らは仲間同士である筈なのに。分からなかったのはどうやら柿本も同様だったらしく、さらに苛立っていることが分かる。どうやらこの場で何事かを理解しているのは城島だけらしい。
「骸さんからの伝言。『かくれんぼは終わりです』らってさ」
告げられたその言葉にぴたりと柿本の動きが止まった。
骸からの伝言、それは私へ向けられたものだ。私と話した時のあの言葉の通り、私のことを探していたのか。いやかくれんぼと言っているぐらいなのだからそこまで探してもいないのかもしれない。だって彼は私がどこにいても分かっていたようなのだから。
柿本から殺気というものなのだろうか、ピリピリとしたものが一気に消え去って手をポケットへと突っ込んだ。眼鏡越しにじいっと見られるその視線は相変わらず鋭いけれど。
「…じゃあコレが?」
「そ。だから持って帰んねーと」
彼らから逃げることなんて、無意味だろうと悟る。
大声を出したところで彼らに適う人間がここにいるとは思えなく。もしも万が一、ツナ達が…ううん、いや、そんなことはない。絶対ないだろう。私を追いかけてくるなんて有り得ない。
何の力も、何の役にも立てない私が誰かに守ってもらえるなんて悲劇のヒロインぶるのもいい加減にしよう。自分のことは、自分でなんとかしなくちゃ。
骸が私を呼んでいるのなら、私に危害は加わらないだろう。問題は押切さんだ。彼をどうすれば、
―――バキンッ
「!」
目の前に座り込んだ柿本が押切さんを覗き込んだかと思うとごく自然な流れで手を口に突っ込み、ペンチで抜き取るその瞬間を目の前で見てしまった。
飛び散る血。
押切さんは既に意識が無かったのが不幸中の幸いというべきなのか声は一切聞こえなかった。笹川了平だとこれが差し歯だったというのだから…いやそれでも痛いに違いない。
そしてこんな場面に耐性のない私はふっと力が抜け後ろへと倒れかけたところを胸ぐらを捕まれる。ぐいぐいと首元が締まろうと遠慮がないのはただここで倒れられると面倒だから引っ捕まえたというところだろうか。そうだった彼らに遠慮というものはない。
「……七本、終わり」
「じゃ行くか」
あと1本というのはそういうことか。
無造作に投げたそれが私の後ろでカツンと軽い音を出したのを聞きながらさっきの柿本の言葉の意を知る。並盛の喧嘩のランキング、カウントのためだけに歯を抜かれるなんて正直残酷でしかない。
強いからと言って決していいことばかりではく、年相応に見えない押切さんはどうやら7位に相当する強さをお持ちだったようだ。私はこの人の妹というポジションではあるものの彼と面識はないし、このお話において彼がツナ達に何かを及ぼすほどの重要人物ではないことも覚えている。だけど、一刻も早く彼を病院に連れていかなくちゃ。
救急車をとポケットに入った携帯で操作しようとしたのにそのまま無理やり立たせられる。が、さっきのスプラッタシーンを見てしまったことにより力が入らなかった。
そのまま再度ぺたりと座り込んでしまい、ついでに音もなく私の携帯が押切さんの服の上に落ちるけれど彼らはそれに見向きもせず私のことを見下していただけだった。
「めんどくさ」
連れていこうとしたのに動けない私に対し小さく呟いたのは柿本、ガシガシと頭を掻くのは城島。そう言われたって動けないものは動けないし、ならばこのまま放っておいてほしいと思うけど骸の命令ならば必ず守るだろう。残念ながら。
ん、と動いたのは城島だった。私に対して背中を向けしゃがみこみ、意図が分からずそのまま見返すも自分の背中をポンポンと後ろ手で叩き。
「乗れよ。お前歩くの遅そうらし」
連れていかれるのは相当不味い。だけどここで、こんな状態で逃げられるなんて思ってもいない。
押切さんが誰かにすぐ、助けてもらえますように。…押切ゆうの身体が軽い設定でありますように。人間扱いされているうちに素直に乗っておこうとふらふらする身体をどうにか、城島の肩へ手をやってゆっくりと乗っかり。
「命拾いしたな」
「え、あ、…うん」
「犬」
「残りは明日やるし平気平気」
ふわりと浮き上がる視界。
そこからはもうあっという間だった。コングチャンネル、呟く言葉。カチッと何かが嵌る音。ミシミシとまたたく間に変わる城島のその体格、はちきれんばかりに広がる黒曜の制服。背負われているその視界がどんどんと上へ上がっていく。
漫画では確かお披露目は随分と後だったけどどうやら私はフライングで見ることが出来たみたいだ。それがラッキーなことなのかと聞かれればうまく答えられないけど。
「ぎゃあ!」
助走もなしに飛び上がるその巨体。
ジェットコースターも驚きの速度とめまぐるしく動くその視界に耐え切れず私は今度こそ意識を飛ばしたのだった。
こすぱに!
「…この女寝てんだけど」
「違うと思う」
ただこちらの世界にやって来てしまっただけの異物がまさか原作のどんな一部であっても遭遇することなんてないに違いないと何処かで他人事のように考えている自分がいた。
踏み出さなければ、踏み込もうとしなければ前回のような事件は起こらないに違いないと高を括っていた。バスケットゴールが倒れてきて 京子ちゃんに当たりそうになったり、私を囮に恭弥がリンチに合いそうになった事だって私がこの世界に踏み入れようとした罰だと考えていた。だからこそ関わらないと。だからこそ近すぎない距離でいようと。
原作に係る何事も、未来の話は絶対にしない。
それから興味本位で話に関わる人間には自分から近付かない。
そう思っていたのに、それがこの世界と上手くやっていく、共存とはまた違う…私がこの世界に居ることを許される唯一の手立てだと思っていたのに。
「誰?」
じゃあこれはどう回避する。
私の記憶にある黒曜編というものは平日に行われていたはずだった。今となれば随分前になってしまうけどそれでも何度も何度も漫画やアニメで見たのだからそうであるに違いないと認識していた。信じきっていた。
彼らは平日の昼間に戦っていたことを。
黒曜編の始まりは制服姿で始まっていたことを。
なのに何故、どうして。
日曜日の夜、押切蓮造が彼によって狙われていたというそんなシーンがあったかどうかなんて今見返すことは出来ないけどそれがここで行われていて私が出くわすことになるなんて思ってもみなかった。
黒曜編の始まりが近いとはいえ関わることもなければ今日じゃないと信じきっていた。だからこそこうやって1人で出歩いたというのに。ぱしっ、と手持ちの武器の音を鳴らしている彼を私はただ呆然と見返すことしかできず。
柿本、千種。
目の前の彼の名前を私は知っている。だけどこの場に何故いるのかと問われれば私には答えることが出来なかった。
だってそうだ、彼が堂々と登場したのは隼人と対面する時じゃなかったか。並盛の、昼間の商店街で。
…違う。
そうじゃないんだと何処かで冷静に分析する自分が否定する。
もちろん私の記憶にある原作の通りに彼らは動いているのだろう。じゃあその書かれていない部分ではぴくりとも動いていなかったのかと聞かれればそうじゃないんだ。
彼らは生きている。
呼吸して、思考して、…例え流れは決められていたとしても彼らの意思で動いている。そして何かを起きるのであれば前準備がある──…それは夕方の私も思ったことじゃないか。
例えばもう既にフゥ太くんが捕まっているだとか。
例えばもう既にこの土日の時点で彼のランキングの通り誰か倒されつつあって笹川さん以上の人だけが平日に戦うことになっていただけだったとか。
…私がそれを知らないだけだったとか。
「…見られたなら壊す」
「!」
何の返答もない私を見て無駄だと悟ったのだろう。
ぱしっ、ともう1度聞こえたそれは見れば見るほどヨーヨーで、ヘッジホッグという名前であることも、隼人ですら苦しめられる事になる毒の針が入っていることを知っている。残念ながらその効果は自分の体で体験したことはなかったからこればかりは分からなかったけれど。
(……死ぬだろうか)
隼人が重症だったものが、私も同じぐらいとは限らない。
それに私には味方もいなければDr.シャマルという知り合いもいない。ここには来ない。こんなところで死んだら、私はまた戻されるのだろうか。痛いのだろうか。私の身体は今度こそ痛みを感じるのだろうか。
不思議と先程まで私の身体を震わせ思考を凍らせていたほどの恐怖は落ち着き始めていた。
ある程度を超えたせいでキャパオーバーしてしまっていたのかもしれない。こんな絶体絶命の場面であるというのにせめて、押切さんにこれ以上危害が加わらないといいけれどと思えたのは全てが麻痺してしまったからだろう。立ち上がる気力も沸き上がらずぼんやりとゆっくり目の前までやってきた彼を眺め、
「柿ピー、これは駄目らびょん」
だけどその時は来なかった。
まさにスローモーション、振り下ろされる手。当然ながら私は彼らにとって無関係で邪魔な一般市民でしかなく、それを片付けるために躊躇なんて全くない。だけど気が付けば目前にもう1人、それも私の方に背中を向ける黒曜制服。
「邪魔するの」苛立ち紛れに聞こえた声と同じタイミングでカランカランと小さい音を出したのはヘッジホッグから落ちた針のような長いもの。恐らくそれが毒針なるものだったのだろう。なるほど私はやっぱり刺されるところでそれを誰かに助けられたらしい。
静寂。
沈黙。
一体何が起きたのだろうか。どうなっているのか把握するためにおずおずと視線をあげると、
「死ぬ所らったな、おまえ」
決して正義の味方と言う訳ではなかった。
ヒャハハと楽しそうに笑いながら私を見下ろす彼は少し久しぶりの見た城島犬で間違いなかった。昼間、M・Mと一緒にいた時に会った時とは違い電灯にうっすらと照らされる彼らの緑の服はより一層不気味さを増す。
だけど助けられたのは確かだ。彼らは仲間同士である筈なのに。分からなかったのはどうやら柿本も同様だったらしく、さらに苛立っていることが分かる。どうやらこの場で何事かを理解しているのは城島だけらしい。
「骸さんからの伝言。『かくれんぼは終わりです』らってさ」
告げられたその言葉にぴたりと柿本の動きが止まった。
骸からの伝言、それは私へ向けられたものだ。私と話した時のあの言葉の通り、私のことを探していたのか。いやかくれんぼと言っているぐらいなのだからそこまで探してもいないのかもしれない。だって彼は私がどこにいても分かっていたようなのだから。
柿本から殺気というものなのだろうか、ピリピリとしたものが一気に消え去って手をポケットへと突っ込んだ。眼鏡越しにじいっと見られるその視線は相変わらず鋭いけれど。
「…じゃあコレが?」
「そ。だから持って帰んねーと」
彼らから逃げることなんて、無意味だろうと悟る。
大声を出したところで彼らに適う人間がここにいるとは思えなく。もしも万が一、ツナ達が…ううん、いや、そんなことはない。絶対ないだろう。私を追いかけてくるなんて有り得ない。
何の力も、何の役にも立てない私が誰かに守ってもらえるなんて悲劇のヒロインぶるのもいい加減にしよう。自分のことは、自分でなんとかしなくちゃ。
骸が私を呼んでいるのなら、私に危害は加わらないだろう。問題は押切さんだ。彼をどうすれば、
―――バキンッ
「!」
目の前に座り込んだ柿本が押切さんを覗き込んだかと思うとごく自然な流れで手を口に突っ込み、ペンチで抜き取るその瞬間を目の前で見てしまった。
飛び散る血。
押切さんは既に意識が無かったのが不幸中の幸いというべきなのか声は一切聞こえなかった。笹川了平だとこれが差し歯だったというのだから…いやそれでも痛いに違いない。
そしてこんな場面に耐性のない私はふっと力が抜け後ろへと倒れかけたところを胸ぐらを捕まれる。ぐいぐいと首元が締まろうと遠慮がないのはただここで倒れられると面倒だから引っ捕まえたというところだろうか。そうだった彼らに遠慮というものはない。
「……七本、終わり」
「じゃ行くか」
あと1本というのはそういうことか。
無造作に投げたそれが私の後ろでカツンと軽い音を出したのを聞きながらさっきの柿本の言葉の意を知る。並盛の喧嘩のランキング、カウントのためだけに歯を抜かれるなんて正直残酷でしかない。
強いからと言って決していいことばかりではく、年相応に見えない押切さんはどうやら7位に相当する強さをお持ちだったようだ。私はこの人の妹というポジションではあるものの彼と面識はないし、このお話において彼がツナ達に何かを及ぼすほどの重要人物ではないことも覚えている。だけど、一刻も早く彼を病院に連れていかなくちゃ。
救急車をとポケットに入った携帯で操作しようとしたのにそのまま無理やり立たせられる。が、さっきのスプラッタシーンを見てしまったことにより力が入らなかった。
そのまま再度ぺたりと座り込んでしまい、ついでに音もなく私の携帯が押切さんの服の上に落ちるけれど彼らはそれに見向きもせず私のことを見下していただけだった。
「めんどくさ」
連れていこうとしたのに動けない私に対し小さく呟いたのは柿本、ガシガシと頭を掻くのは城島。そう言われたって動けないものは動けないし、ならばこのまま放っておいてほしいと思うけど骸の命令ならば必ず守るだろう。残念ながら。
ん、と動いたのは城島だった。私に対して背中を向けしゃがみこみ、意図が分からずそのまま見返すも自分の背中をポンポンと後ろ手で叩き。
「乗れよ。お前歩くの遅そうらし」
連れていかれるのは相当不味い。だけどここで、こんな状態で逃げられるなんて思ってもいない。
押切さんが誰かにすぐ、助けてもらえますように。…押切ゆうの身体が軽い設定でありますように。人間扱いされているうちに素直に乗っておこうとふらふらする身体をどうにか、城島の肩へ手をやってゆっくりと乗っかり。
「命拾いしたな」
「え、あ、…うん」
「犬」
「残りは明日やるし平気平気」
ふわりと浮き上がる視界。
そこからはもうあっという間だった。コングチャンネル、呟く言葉。カチッと何かが嵌る音。ミシミシとまたたく間に変わる城島のその体格、はちきれんばかりに広がる黒曜の制服。背負われているその視界がどんどんと上へ上がっていく。
漫画では確かお披露目は随分と後だったけどどうやら私はフライングで見ることが出来たみたいだ。それがラッキーなことなのかと聞かれればうまく答えられないけど。
「ぎゃあ!」
助走もなしに飛び上がるその巨体。
ジェットコースターも驚きの速度とめまぐるしく動くその視界に耐え切れず私は今度こそ意識を飛ばしたのだった。
こすぱに!
「…この女寝てんだけど」
「違うと思う」
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