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「迷子、かなあ?」

校舎を横切ってさっさと帰ってしまおうと思ったのにそこにはどう考えても中学生ではない男の子がキョロキョロとあたりを見回していた。
このあたりで迷子になられても地図がなければサッパリ分からないという残念極まりない私であっても無視することは出来るはずもなく、今にも泣き出しそうな男の子に対してしゃがみ込んで視線を合わせながら話しかけるとコクリと小さく頷いた。

「学校に何か用事だったの?」
「…お兄ちゃんの、応援に」

門が開いていたのはどうやら試合か何かがあったということなのだろう。じゃあ考えられるのは体育館か、運動場か。
さっきまでフゥ太くんに懐いてもらえなかった寂しさがあったのも相まって、どうにかして助けてあげなくちゃと重い荷物を片手に持ちその子に向かって手を出した。

「じゃあ私と一緒に探そうか。行こう」
「うん!」

疑われることなく小さな手が繋がれる。…可愛い。
元の世界だったら間違いなく不審者扱いされそうな事案ではあるけど私の見た目も多分中学生だ、きっと問題もない、はず。多分。

という訳でまず向かったのは体育館。
一瞬空手部がいるかと思ってヒヤヒヤしつつも二人してひょっこりと顔を出すとバスケ部が練習しているだけでちょっと安心した。しつこいようだけどこの男の子と違って私は兄に会いたくはないのだ。が女子バスケ部にも声をかけられていたことを思い出して誰にも見つからないようにすぐ扉を閉める。

「ここには?」
「…いなかった」
「じゃあ運動場かなあ。お兄ちゃん何部?」
「野球!」

最初から聞いておけばよかった。野球部か。
つまり山本もいる可能性があるってことだろうか。というか、いるんだろうなあ…。

別に彼に会いたくないという訳ではない。
ただ、ディーノさんと会った今日は特に誰にも会わないほうがいいと思ったわけで。

どうやらこの世界は、私には皆と話す機会をくれるようだけど原作の場面には遭遇させてはくれないということは流石に理解していた。そんな中、もしも繋がりを見付けられてごちゃごちゃとなってしまうのは避けたいなと思っている訳だ。

未だ自発的に何かをしようとは思わないのはある意味仕方の無いことだと思う。未だに逃げるクセはしっかりついているみたいで今日は何としても早く家に帰りたい。
多分、もうあの二人はツナ達と関わりは持っているだろうけど重要人物であることには変わりない。

特に、近い未来フゥ太くんは…

「…お姉ちゃん?」
「あ、ううんごめんね何もないの」

ぎゅっと握る手に力が篭ってしまった。危ない危ない、迷子で不安になっている子を更に不安がらせてどうするの私。

慌てて笑顔を取り繕って運動場へ向かうと野球部が試合をしているところだった。
…練習、試合だよね?と聞きたくなるぐらいまるで大会のごとく親御さんやら他の学生さん、はたまた山本の熱烈なファンクラブが黄色い声をあげながら応援しているのが見える。
お休みの日まで応援に出てくるなんてやっぱりファンってすごい。

「お、ゆうじゃん」

どうやら試合も今は休憩中らしい。
遠くから何故だか山本が気がついたみたいでブンブンと手を振って走ってきた。私も目はいいはずなのに山本こっちに気がつくの早すぎじゃないか。同時に女性陣からの熱い視線がこっちへと向けられ、引きつりながら私も手を振り返す。

ひいい女の子怖い!恋する女の子の視線が怖い!

「この子が迷子みたいなんだけど…」
「そっか。ちょっと待ってろよ」

ポン、と山本が男の子の頭を軽く撫でるとまたダッシュで向こうへと走っていく。入れ替わりに山本と同じユニフォームを着た子がこっちへと走ってきた。
ホッとした男の子の顔を見るにどうやらこの人がお兄ちゃんらしい。

「お兄ちゃん!」
「母さんが心配してたぞ。勝手にどっか行っちゃだめだろ…え、あ、この人は?」
「お姉ちゃんが連れてきてくれたんだ」
「…山本のクラスメイトの押切です。無事会えてよかった」

これで私の仕事は終わりだ。
安心して私も男の子の頭をポンポンとすると嬉しそうに笑みを浮かべた。
うんうん、子供は笑顔が一番だ。

安堵したのも束の間、押切…と静かに私の名前を口にした野球部の子は驚いたように私の顔を見返す。

「あっ、あの押切ゆう!?」
「え」
「あ、何でもない…ッス。いやーほんとサンキュ!ほら、みつるもちゃんとお礼言いな」
「ありがとうお姉ちゃん!」

『あの』ってどういうことだろう。
前に山本が言っていた並盛中学の運動データだか何だかはやっぱり体育会系の部活の人達には知れ渡っているということなのだろうか。
それ以上彼は話してくれなかったけど男の子はみつる君ということだけ把握した。今度の野球部の応援でまた会えたらいいなあ。私もせっかくだったらこんな可愛い弟が欲しかったなあ…。

「じゃあ試合頑張ってね!みつる君も、さようなら」

山本が去ったことにより女性陣からの視線も避けられたので今のうちに、と私は二人に礼をすると買い物袋を両手に持ち替えて逃げるようにしてその場を去った。

…山本のファンクラブに入会するのはもう少し落ち着いてからにしよう。せっかくだし私もハチマキつけて女の子たちとキャーキャー言ってみたいんだもん。
  
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