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「好きです」
「ミーは君に興味無いですー」

結果の分かり切った席替えも終え、今日も無事に授業を終えてほっと一息。うっかり提出を忘れた数学の課題を職員室に出しに行っている間にフランは例の如く女子に呼び出され熱い告白を受けている最中だった。
勇気あるその女子生徒はまさかの私たちの教室を告白の場に選び、鞄も何もかも教室に置きっぱなしの私は何とも言えずにその教室前で待機しているという有様。

確かに放課後ではあるけど殆どの人はもう帰ってしまっているし、教室というのはちょうど良かったのかもしれない。けど私も堂々と自分と机の上に鞄が置いてあることだし、何より私とフランがいつも一緒に登下校していることぐらい皆知っていることだしどうしたものだかと思案する。離れるべきか、身を隠すべきか。
しかしフランも特に目立った行動とかしてるわけじゃないのにモテるんだなあ。やっぱり女の子って同世代の男の子よりも大人びた人に惹かれるのだろうか。フランも黙ってれば確かに…いや、やめておこう。寡黙なフランなんて想像しただけで笑いそうだし、この場で私が爆笑するのは非常に不味い。

「っ、スイさんに彼氏が出来るまでってそれいつまで理由にするつもりなんですか!」

あ、やっぱり突っ込まれてやんの。
そもそもそんな無茶な、というよりは嘘丸出しの言葉をよく皆今まで受け入れてきてくれたものだ。かと言って遠回しに私に対してそれの真偽を聞いてくる猛者も居なかったな、そういえば。

「大体スイさんに彼氏が出来ないのって」
「…黙ってくださいー」
「い、いやよ!だって、フラン君とスイさん兄弟なのに」
「はー、あのですね」

お、フランが言い負けしてる。違うか。
どちらかというと呆れすぎてお得意の毒舌が出ないと見た。
女の子は清々しいぐらいに振られた所為なのか今まで誰も言ってこなかったような言葉でフランを問い詰める。

「大体、スイさんより私の方が…っ」

ほほう、とうとう私まで引き合いに出しちゃったか。どうせ私は可愛くないですよ、だ。
完全に関係ないと思っていたのに突然私のことまで振られてしまえば気にもなる。声の主が一体どれほど可愛いのか見てみたくなってしまったのも仕方の無いことだ。

これはもう事故を装って扉を開くしかない。
そう思いながら手をかけようとして、ふと窓からフランの姿が見えて立ち止まる。
女の子はちょうど私に背中を向けている状態で、

「!」

ふわりとフランが笑みを浮かべ女の子に近付いた。
角度を違えればまるでキスでもしているように見えないことは無いけど見る見るうちに女の子の顔が赤くなり耳を手で塞ぐ。その動作から甘い言葉でも呟かれたのだろうかと思っている間にバッとドアが開き予想外のご対面。

私がなにか口にする前に彼女は私をキッと睨みつけるとそのまま去っていってしまった。

「今の何、」
「あー…ブスって言ったからですかねー」
「……乙女心がわからんヤツめ」

いつか地獄を見るに違いない。
好きな子にそんな事言われるなんてショックだろうなあ…あ、でも確かにさっきの子はなかなか可愛かったような気がする。

まだ彼女の姿が見えないものかと廊下に顔を出そうとすると突然横からニュッと腕が伸びてきてフランの腕の中に閉じ込められた。
何事かと身をよじらせようにも一層力強く抱きしめられた挙句ぐりぐりと首筋に顔が埋められるし私の顔面には林檎がめり込んであかるし絵面は最悪だ。

「…動揺しました?」
「いやー…別に」
「ちっ」

え、今すごい大きな舌打ちしたよね。それもはや舌打ちじゃなくて口で言ったよね。
思わず突っ込みたくなったけどフランの気遣いにも勿論気付いている訳でよしよしと背中を撫でて離れた。

一応この学校では私たちは兄弟である。しばらく通う予定のここで不純異性交遊だとか禁断の恋だとか騒がれては後々が面倒くさい。
そしてそれよりもあと10分でタイムセールが始まってしまうので私は近所のスーパーに走らなければならないという大事な使命がある。長居は禁物だ。主婦と戦うのはなかなか重労働なのだから。

「…さ、時間も結構経っちゃったし早く行かないとク「スイ」ムギュっ」

再度誰かに引っ捕まえられたと思うと今度は柔らかいものが顔面に押し付けられる。
そのままぎゅう、とすりすりされれば流石に名探偵ではない私だって相手の顔も見ないうちに犯人を特定することは容易だ。

「…遅くなってごめん」
「寂しかったの」

うりうりと私のほっぺに擦り寄って嬉しそうに微笑むのはクロームだ。

もちろん彼女は私達よりも年上なわけで流石に黒曜高校の生徒ではない。にも関わらず桐島凪というまさかの三兄弟設定を強引に通したらしく、放課後になれば門のところで待ってくれるシスコンぶりを発揮してくれていて、ある意味名物と化している。
どうやら私たち2人がいつまで経っても来なかったので迎えに来てくれたみたいだ。過保護なお姉ちゃんである。

「フランの用事も済んだし今日は早く帰るよー!スーパー行くからね!」
「…うん」

クロームの拘束からも抜け出すと鞄をさっさと手にして時計をちらちらと気にしながら2人がゆっくりと後ろを歩き出したことを確認。
私は一足先に玄関口へ向かって駆け出した。




「『ミーの悪口はいくらでも構いませんがスイの悪口は絶対許しませんよー』」
「…っ、盗み聞きって悪趣味過ぎますー。師匠に似たんですかー?」
「……私も、きっと同じ事言っていたから」

「何やってんのー?タイムセール終わっちゃうよー!」

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